アドレナリンと感覚麻酔 

第三章 第十話

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 二つの性器に囲まれとろんと顔が蕩けたケイ。それを貪欲に貪ろうとする蒼。ここは、狂っている。何度も思ったことを、聖月は快感に耐えながら考えていた。聖月はさらに喉奥へ口を動かすケイに叫んでいた。

「や、やめろよっ」

「ケイのこと独り占めされて嫉妬してんのかよ。セイちゃんは欲張りだなぁ〜、俺にもケイ使わせろよ」

 まるでモノのようにケイを扱う蒼に嫌悪感が立つ。蒼はケイの腕を無理やり掴むと、自身の性器に触れさせた。

「ん、っぅうう、んふっぅ」

 ケイが蕩けた表情で何かを伝えようとしている。喉奥が聖月のモノで埋っているから、声とも言えない呻き声が発せられるだけで、それがさらにケイに悲愴さを強調させていた。だが喋ろうと喉奥を収縮をされると、それが新たな刺激になって聖月をさらに追い詰める。

 聖月は腰を悶えさせ、何とか強すぎる快楽に耐えていた。やがてケイは鼻息を深くさせ、その綺麗な手で蒼の性器を擦り始めた。

 蒼はケイに自身のソレをただ触れされただけで、「動かせ」とも命令もしていない。自主的に、ケイは手を動かし、蒼を気持ちよくさせようとしているのだ。本当に、心からそうするのが嬉しい、生きがいだというように。

 そのことに聖月は畏怖を感じながらも、ついに限界が近い自分の欲望と戦っていた。

 ―――嫌だ、ここで出したら蒼と一緒だ―――!

 そう思っても、ナンバーファイブのケイの舌先の技術は相当のものだった。何度も男たちを昇天してきた口使いは、こういった刺激に慣れていない聖月にとって堪えようがないものだった。聖月はやがて痙攣を抑えきれなくなり、無意識のうちにケイに腰を押し付け、シーツを掴む手は大きく震えていた。

 身体を震わせながら思い出したのは、小向に無理やりさせられたケイとの交わりだ。

 あの時の自分は感覚がなかった。その時はそのおかげで何とかケイとの行為を耐えられたが、身体は気持ちよさそうに反応していたことは鮮明に覚えている。

 あの時も今と同じようにもしも感覚があったら…きっと、聖月とケイは今の関係ではなかったであろう。きっとあれが引き金になって、ケイのもとから離れなくなっていっただろう。そう聖月が思うほど、ケイの愛撫は巧みで、男の欲望を満たすものだった。

 それを嬉々として受け入れたのはケイだけではない。蒼も目を細めあられもない姿に堕ちていく聖月を愉しそうに見つめていた。人が堕ちていくのが堪らない―――まるで死神のように、蒼は聖月を見ていたのだ。

「…、ッん、ク…ソ…、離せっ」

 限界が近い。それが分かっているからこその切羽詰まった声と、聖月の無表情の崩れた顔にケイはさらにうっとりとした表情になる。

 ケイはさらに性器の愛液を吸い出すように愛撫し、手の動きも早くする。それはいずれも巧みで、奉仕されている方はうっとりとするほかにないものだった。

「あぁ、イイ感じだァ…、ケイ、出すからな? ちゃんと受け止めろよ…ッ」

 蒼が興奮し、反対に聖月は焦りを見せた。

「…ッ、ケイ、まっ、って…、ッぅ」

 2人が達したのはほぼ同時だった。

「〜〜〜〜、ん、ひぅっぅ、んっぅ〜〜〜〜ッ」

 ケイが獣の声をあげたと同時に、聖月は口から外そうとしたが間に合わなかった。聖月はケイの口腔へ性器から精を吐き出し、蒼も大量の白濁をケイの手にぶちまけた。その蒼の精は聖月の性器にさえかかるもので、ケイの顔も白濁で汚してしまっていた。

 蒼は小さく気持ちよさそうに声をあげ、背中を逸らし、吐き出す快楽を愉しんでいた。

「…、ッ、ウグッ…」

 反対に聖月は声を必死に抑え、長く続く射精感に堪えていた。何とか口に出すのは避けたくて抜こうとしたが、間に合わずケイの口腔に吐き出してしまったことに後悔を感じながら―――。聖月は背中を反らしながら、電撃の様な快楽を堪え、そのまま口腔に入っている性器を口から抜こうとするが―――。

「ッ、う、わっ、や、やめっ、今、ッ」

 聖月は甘い嬌声にも似た驚きの声を上げる。口から抜こうとした瞬間、舌先で未だ敏感に震えている先端を舐められたせいでだった。

 唐突に敏感な部分を抉られ、聖月は嫌だとかぶりを振る。

「あ〜ぁ、セイちゃんだけずるいなぁ。俺もさぁ…お掃除フェラしてくれよぉ…」

 夢中になって聖月の吐き出した性器を舐め続けるケイに、蒼は自身の先端の濡れたモノを頬に押し付ける。何度見ても慣れぬその大きさに驚くが、それ以上に次にしたケイの行動に度肝を抜かれた。ケイは目元に笑みを浮かべ、聖月の入ったままの口を大きく開けたのだ。

 それは蒼には―――いや、蒼ではない誰だって―――二人分入る立派な穴に見えた。

「ん、っぅんん゛――――っ」

 蒼は問答無用でケイの口に差し入れた。ケイは大きな呻き声をあげて、その衝撃に耐えていた。―――あんなに小さいケイの可愛らしい口に、二本の男根が突き刺さっている。その倒錯的すぎる状態を見てしまった、体験させられているということの今のこの状況が聖月の脳には全く理解できなかった。

 まさにそれはこの世のものとは思えないぐらいの淫猥で非道な光景だった。

「や、やめっ、ケイがこわれちゃう…ッ」

 蒼のものは太いし、二つの男根なんて普通だったら入るわけがないのに、入ってしまっている―――。

 ケイが壊れてしまう!―――聖月は思わず必死に叫んでいた。

 そんな聖月の悲鳴に、蒼は愉しそうに笑った。今彼がやっている非人道的行為に似つかわしいぐらい、楽しそうな笑みだった。そして彼は嬉しそうに話すのだ。

「大丈夫だって。ケイはこういうのが大好きな淫乱なんだから、協力してやってんの、≪俺たち≫は」

 俺たち――――…。

 聖月は今の状態は自分も大きく関わっているとやっと理解し、急いでケイの負担をなくすため身体を動かし口から抜け出そうとするが―――。

「ん、ぅ、んふぅっ」

 蒼は腰を激しく打ちつけ、ケイを追い込む。その刺激は隣にいる聖月にも伝わり、性器が擦れる気持ちよさに頭に電撃が走る。ケイの精まみれの汚れた美しい顔を見てしまい、美しいモノを汚す快楽を味わってしまった。

 聖月はどうせなら一生知りたくなかったその快感を知ってしまった。男だったら、いや人間だったら―――その絶対に抗えないその征服欲を満たす快楽を。

「ん、ッ、ひっ、や、ァっぅ」

 自身を抜けようとすると、ケイがさらに愛撫を深くし引きとめる。そして追い打ちのように蒼が聖月の腰をがっしりと手で押さえつけ、逃げられないようにする。蒼、何よりケイがまさにこのままでいてほしいと引き留める様子に頭がクラクラとした。

 蒼の腰の動きに合わせギシギシと激しいスプリングが鳴り、ケイを追い詰めるためのリズムを刻む。

「ほら、セイちゃんも腰動かして? 一緒にケイを気持ちよくさせようぜ? そんで一緒にケイを壊しちゃおーぜ…ッ、そしたらお前もケイを壊した同罪者だ…ッ」

 蒼が高笑いをして、ケイと聖月を責め続けた。ケイには痛みと快楽を。聖月にはアイデンティティとプライドを。

 蒼の笑い声は心の底から楽しそうで、嬉しそうで、そして狂気に満ち溢れていた。

「ん、んぐぅ、んぶ、んんんんっ」

 ケイが大きく呻く。蒼が腰の穿つスピードをさらに早めたからだ。そしてそれと同時に激しくぐちゅぐちゅと音が鳴り響く。ケイは人とは思えないほど、快楽に染まった顔をしていた。見ているこちらがゾッとするほど妖艶な彼の表情は聖月の心に深く傷を残した。

 それは認めるしかない程、ケイがこの行為を望んでいる証拠だったから。

「――――ッ」

 聖月はついに陥落し、蒼の言う通り≪同罪者≫になった。快楽への終着点はあまりに鮮烈な快感だった。抑えようにも吐き出された精は確実にケイを汚し、同じように吐き出された蒼の精もケイを汚した。

 ケイの口からボタボタと落ちる白濁は、痙攣を繰り返すケイにとても似合っているように見えた。そう聖月は見えてしまった。そしてゆっくりと二本の肉棒が引き抜いた瞬間ベットに倒れ、痙攣を繰り返すケイはきっと達しているのだろう。

「ケイッ」

 思わず身体を揺らすと、ケイはビクビクと身体を撥ねさせた。そのことに驚き聖月は手を離す。そんな様子の聖月を見て、蒼は性器をぶらつかせながら冷笑する。

「やさしいんだが、わざとやってんだか」

「…ッ」

 クスクスと笑う蒼の瞳は≪お前もこうさせた同罪者≫と言っていた。何も言えずにいると、ケイはやがて顔を上げて蒼を見上げた。そして小さく「そう」と蒼を呼ぶ。

「おー、どうした?」

「…これ、あげ…る」

「なんだこれ、あー、アレか。お前タフだなァ」

 頷くケイ。ケイが渡したのは、小さなカプセルだった。蒼は中身を知っているのか、何も言わずにそれを飲みこむ。その様子を驚きつつ見ていると、ケイがこちらを見つめているのが分かる。口をパクパクさせていたので、耳元に近づけると、ケイのはっきりした声が耳朶を打った。

「……にげ、て」

 逃げて、そう言ったケイはすぐに蕩けた笑みを浮かべる。まるで今までの行為は聖月を逃がすためのものだと言うように。聖月はすぐにはその言葉を信じられなかった。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったから、とても動揺を隠しきれていなかった。

 ケイの言葉を何度も反芻していると、すぐに違う笑い声が聞こえた。

「じゃあ、ヤろうぜ?」

 


 

 

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