ンドルフィンと隠し事

4

 

 

 やがてその拷問のような同伴は好紀の中で日常になった。

  あんなに無視をきめているクミヤだが好紀に対して名指しで指名を続けるのは変わらなかったからだ。どこが気に入られたのか分からないが―――。お気に入りになってくれるのはありがたいが、そうであったのなら何か反応をしてくれるとかなり助かる。

 確かにあまり話さないメンバーもいるが、少しは反応はくれる。

 クミヤに関しては何にもないので、本当に好紀のひとり言になってしまうのだ。

 いや―――彼はきっと自分の事が気に入って指名しているわけではないのかもしれない。

 きっとここのオーナーに同伴を付けるように言われて仕方なくしているのかもしれない。そうでなければ、好紀を気に入った以外に指名を続けている理由が見当たらない。

 だんだんと彼の指名を受けるうちに、会話力と、精神力が鍛えられるのは否めない。

 だがそんな風に鍛えられる会話力とは相対し、肝心の本業では散々な目にあっていた。

 久しぶりに指名を受け、今日こそは耐えてみせると思ったのに。そんな意気込みとは真逆のことを好紀は結局してしまった。

「おッ、ェ…ッ」

 また、挿入される瞬間客の前で吐いてしまった。ベットにボタボタと吐しゃ物が飛散する。バックの体位だったからよかったが、正面だったら目も当てられないものだっただろう。久しぶりにきたお客さんだったのにまたダメだった―――。

 また好紀は今までのように怒られ、クレームを言われると覚悟したが今日指名してきたその客はどこか反応が違かった。

「おや、本当に吐いたのかい」

 噂は本当だったんだ、と笑う40代の男は笑う。それは好紀にとって不思議な言葉だった。飛んできたのが罵声ではなかったからだ。好紀は思わず後ろを振り向く。会社役員だという体格のいい男は好紀の表情を見て、欲望に満ちた気持ちの悪い笑みを浮かべていた。

 その顔を見て背筋がぞっとする。

「綺麗な顔が醜くなって嫌悪感に満ちていていいねぇ…ホントに強姦してるみたいだ…ッ」

 ―――みたいじゃなくて、強姦だっつうの―――ッ!

 思わずそう悪態をついてしまいそうになった瞬間だった。

「ァ、ッ」

 男の声と共にミチミチと、痛みを伴って内部が拡げられいく。その嫌悪感に好紀は顔を引きつらせる。それは男とする行為に対するものではなく、性行為そのものに嫌悪している表情だった。好紀は耐えられない。自分が今していることに。

 自分が『怪物』になってしまう気がして―――大切なものを失ってしまう気がして。

「ウっ、ぶッ、き、汚いッ嫌だッ、」

 無理やり頭を押さえられ顔を吐しゃ物のある染みに押し付けられる。好紀は思わず拒絶の言葉を叫んだ。顔全体が汚物に塗れ、惨めな思いと、その気持ちの悪さに仕事ということを忘れ本気で抵抗する。

 だが太いものを尻にいれられ、巨体に押しかけられた好紀が出来ることなんてたかがしれている。男は赤子の手をひねるように好紀を押さえつけた。本気で暴れ、泣き叫んでいる好紀に客は興奮した声で言い放つ。

「自分で吐いたものだろう? ちゃんと綺麗にしなくちゃだめだじゃないか…ッ」

 グリグリと吐しゃ物を押し付けられ、好紀は息が出来ない。ツンとした自分が吐いたモノの匂いに目を瞑る。抵抗を続けるその間にも、先程拡げられた孔に男の性器が性急に侵入してくる。

「うっ、おぇッ、お客さんッ、犯罪者みたいな顔しちゃってます…ッ」

 なんとか顔をあげ、後ろをみて叫ぶと、男は鼻で笑った。

 それは好紀の悪い癖だった。この場を切り抜けようと、いまここで求めない冗談を言ってしまう。言ってしまってから、自分の悪い癖が出ていることに気づき頭が真っ白になる。興ざめにしたと怒るかと思っていたら、またも予想に反した反応が返ってきた。

「ふふっ、そうやって冗談を言って何とか切り抜けようとするんだね。そんなバカな子にはお仕置きが必要だなぁ」

「あ、あがっ」

 バチンッ、と尻を思い切り平手打ちされ好紀の細身の身体が飛び跳ねた。飛び跳ねたことを叱責するように、割れた尻を左右で叩かれる。

「い、いたい、いたぃいいいッ」

 好紀はあまりの痛みに演技ではなく本気で叫び、泣いていた。

 なんで、なんで俺が―――ッ!

 もう吐しゃ物まみれの顔なんて気にしてはいられない。やがて律動を始めた男に本気で殺意が湧いた。嫌悪感に満ちた顔で睨むと、男は愉しそうに笑った。

「ああ、いいねぇ、コウくんだっけ?すごい掘り出し物だよ…、久しぶりの指名だったんだろう? こんなにキツキツなんて本当に処女を犯してるみたいだ…」

「い、いぎっい、んぎっ」

 加減を知らない容赦のない後ろからの打ちこみに、好紀は呻き、どうしようもなく涙が溢れる。内部を無理やり擦られ、尻を叩かれ、あまりの激痛に気を失ってしまいそうだった。バチンッ、バチンッと大きな鈍い音がホテルの部屋に響き渡る。

 また気持ち悪くなり吐きそうになって口を抑える好紀を男は容赦なく嬲る。

「また吐くのかい? いいよ、だってまたキミが掃除してくれるんだろう?」

「ん、んぅううッ」

 男の言った≪掃除≫の意味が分かるからこそ唇を結び大きく首を振った好紀は、なんとか吐き気を抑えようとする。

 もう、嫌だ、嫌だ―――ッ!

「コリコリした前立腺を擦っても萎えてる性器も可愛いねぇ、本当にセックスが気持ち悪いんだねぇ…」

 嬉しそうに腰を動かす男が気持ちが悪い。男が触れている場所が、腐っていくような気がした。男がいやらしい手つきで撫でた好紀の性器は萎えていた。今まで一度だって、客とのセックス中に気持ちよくなったことなんてなかった。

 こんな気持ちの悪いことに気持ちよくなってしまったら、それこそ自分はもう戻れない気がした。

「ねえもう一回吐いてもいいんだよ。ほら、俺のちんこ咥えてみて?」

 孔から性器が抜かれ、好紀の小さな孔はぱっくりと割れていた。外気に触れた穴がヒクヒクと蠢いている姿は男の目を楽しませる。

 身体を回転させられ、無理やり口腔に男の性器が挿入させられた。男の性器の匂いと、喉奥を突かれるという行為、そして口の中に広がる精の味。

「おぉ、出る、出る…っ」

「ん、んぐぉおッ…ッ…」

 男が腰を震わせ射精し、喉奥に精液がついた瞬間―――ついに好紀は耐えきれず決壊した。好紀は男のモノを咥えたまま、胃の中にあった少量のモノと、男の精液を吐き出したのである。好紀の顔と身体は吐しゃ物と、汗と、体液に塗れた。

 男はずるりと、性器を外し呆け子供のようにすすり泣く好紀を嬉しそうに見つめる。

「あ…ぁ…ぁぁ……ぅう……」

「あーぁ、汚いねぇ、こんなにディメントで汚い子初めて見たなぁ。ほら、記念に写真撮っておこっか?」

 男はサイドテーブルに置いてあったケイタイをすすり泣いている好紀に見せカメラを起動させる。

「いやだ…ッ、いやぁ…」

 好紀は男の手を払いのける。その軽い衝撃で男の手からケイタイが落ちる。

 男はしばらく経ってから好紀の丸く小さくなった背中に性器を擦りつけ、耳元へ囁く。それは好紀にとって悪魔の死刑宣告だった。

「あーぁ…俺のちんこ小さくなっちゃった。どうすんの? お金払いたくなくなっちゃった。クレーム言ってもいいんだよ? コウくんが吐いて俺の身体汚くしたって。ディメントで何回もクレームきている子ってやっぱり首になっちゃうのかなぁ…?」

「…ッ」

 首になる。男の言葉に我に返った好紀は自分が買われた立場だということを思い出す。

 そうだ。この人に従わなければいけない―――。

 好紀は行為中の写真撮影が禁止だということを分かっていながらも、それを断ることが出来なかった。下位のメンバーは売り上げを気にしてこういった禁止事項を仕方なしに受け入れることが多かった。

 クレームを入れてやると言われれば大人しくすることできない。クレームが来ればディメントから何らかの制裁がくることが分かっているので従うしかないのだ。

「最初からそうすればいいんだよ」

 男の冷たい声が頭上から降ってくるが、反論なんてできない。

 写真を何枚も撮られ、好紀はベットの上でただ泣くことことしか出来なかった。男に見られたくもないところまで写真を撮られ、やっと解放してもらえると思った束の間。男が見たくない好紀の写真を見せてくる。

「ほら、コウくん、自分の汚い顔見てごらん? こんな気持ちの悪そうな顔、見たことないよ」

 画面に映る吐しゃ物まみれの惨めで汚い自身の顔に好紀はまた泣きそうになる。

「…う、ぅ…ッ」

 スライドされ、行為後の自分の身体を見せられる拷問。好紀は身体を丸くし、泣くことしかできない。

「また、指名してあげるね。コウくん? 嬉しいだろう? キミはやっと固定客をつかむことが出来たんだから」

 男の言葉は頷くことしか許さぬ冷たさで、好紀は笑みを浮かべ頷いた。男は優しい手つきで好紀の吐しゃ物がついた黒髪を撫でた。

 

 

 

 

作者を励まして下さる方、感想を送って下さるお方は下の拍手ボタンを押してくださると嬉しいです。

 

inserted by FC2 system