嫌だと好紀は拒否している姿を、ナンバー2であるクミヤは無表情のまま見つめていた。それだけでは何を考えているのかは分からない。だが好紀だけを見つめるという光景だけでも、何を考えているか分からない彼に少し色がついた。
好紀の立場はさらに悪化していった。
「まだこっちはやってないよ」
と、襞(ひだ)を一人の男が大きく外気に広げると、客たちは思わず唾を飲み込んだ。そんな行為にも敏感に震える好紀は、とても庇護欲をかきたてられるものだった。
「いやらしい色をしているな」「赤みがかったピンクだ。何度コイツでお客様を満足させた?」と次々に男たちにのぞき込まれて感想を言われて、好紀は耐えきれず泣いてしまう。
「やめてくれよ…」
自分の格好を目の当たりにした好紀は、身体を弛緩させる。もう、どうでもいいと思ってしまった。ここにいる全員にこんな場所を見られてしまったら、もう、どうしようもない。大人しくしてれば、きっとこんなことは終わらないかもしれないが早く終わるはずだ。
好紀は静かに涙を流しながら男たちにされるがままになる選択を選んだ。
客たちはコウの内部をみて、自慰を始めていた。
「コウくんの前立腺はここかな?」
「俺が広げてやるから、待ってろよ」
小さな孔に一斉に伸びる男たちの手。ローションをかけられ、冷たい感触にビクつく好紀は妖艶だった。受け入れてしまえば、あとは簡単だった。
気持ちいい―――。そんな、感情が頭の中で浮かぶ。
「…ん、ぁ…ッ」
自分でも、恐ろしいぐらいの甘い声が出てくる。
弄られ続けて、好紀のいい場所が分かってきた手が好紀の反応に合わせるようにいい場所を触る。「これを入れてあげようか」そう言われて見てみると、長い孔を拡張するための道具が手にある。好紀は頷いた。
隣にいるサツはベットでとろけた顔で何人の男にまわされている。その蕩けた表情を見て、今自分はこんな顔をしているのだろうか。そんなことをぼんやりと思っていた。
なすがまま、言われるがまま受け入れていたら好紀の孔はめいいっぱい広げられて、さまざまなグロテスクな道具がいつの間にか入られていた。
普通の人だったら、目を開けることもためらうものだろう。だが、ディメントの客は違う。それを嬉々として見ていた。好紀はなんとか落とさないように、力を入れていた。
「う…ぁ…は…ぁ、はっぅ」
好紀の声が、痛みと快楽の境目の狂気さを感じる声をあげた。
ゆっくりと男の一人に長い道具を引き抜かれていく感覚は奇妙な感覚で。内臓まで出て行ってしまいそうな恐怖と、内壁を動かされる快感のはざまで好紀はすすり泣く。男たちは嬉しそうに、好紀から道具が抜かれるのを見つめていた。
ぼとりと、一個の道具が落ちる。それを引き金に、ほかの道具も好紀のなかから零れ落ちた。
「あ…ッ、あ…ッあぁ…」
道具が抜け落ちる感覚は、敏感になった好紀にとって毒でしかない。びくびくと身体を撥ねさせ、背中を反らし達していた。その姿は、妖艶そのもので客たちは好紀から目を逸らせなくなる。
「コウ…」
誰かが名前を呼ぶ。
「もっと気持ちよくさせてやるからな……」
この会場の中で聞いた声の中で一番やさしい声を出した男は、好紀のゆるく柔らかくなった場所を愛おしそうに撫でる。その声にはやさしさと興奮が入り混じっており、好紀は深く考えることをやめ意識を投げ出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇
声が聞こえる。優しい声は身に覚えのある声で、好紀はゆっくりと意識を覚醒させる。目を開けるとうすぼんやりと、同室の男である顔がそこにはいた。
「イ…チ?」
好紀が、イチの顔をとらえると、焦点をあわせるように彼がこちらを見た。なんだか恥ずかしい気持ちと…眠くて、目をこすり、布団をあげて顔を隠す。
「おーい、コウ。起きろ、セイさんが来てくれたんだぞ」
イライラした時に見せる彼のオラついた声に、ビクつく。そんな彼の様子よりも「セイ」と言う言葉が気になった。
「あっ、起こさないでいいよ。だって、寝てるし」
「だめですよ。コイツ、何時間もこのままで御飯くってないんですもん」
「…セイさん?」
それは、ナンバー3であるセイの声で、好紀は驚いた。目を開け、目の前にビックリした様子のセイがいて好紀は顔を真っ赤にさせる。セイを見つめると昨日のこと―――「助けて、助けて……誰か」―――そう叫んだ自分と目が合った彼のことを思い出す。
そして昨日自分がどんな醜態をさらしたのか、ということを。
「おい、コウ、何隠れてんだよ。セイさんが、お見舞いに来てくれんだぞ」
イチがベットに片足を乗せて、くるまった好紀をゆする。好紀はただ黙って、揺らされているだけだった。だって、こんな自分見せたくないじゃないか。好紀がそう思っていると、セイは立ち上がる。
「…ごめん。体調悪いのに、来ちゃって。また、元気になったら、顔見せて」
「えっ、いいんですか。おい、コウ、何隠れてんだよ。セイさん、帰るって」
「いいよ。ありがとうイチくん」
優しい二人の声を聞いてほっとする。わざわざ来てくれたやさしい人に、顔は見せられなかったがお礼だけは言わないといけないと感じた。
「…セイさん、きてくれて…ありがとうございます………」
布団のなかから好紀はセイにお礼を言った。その震える声に彼は「こちらこそ、ありがとう」といった。彼はそのまま「おじゃましました」と言って玄関に向かっていった。イチとセイが何かを話している声を聞きながら、好紀は自分を責めた。
立場もナンバー順位も高い2人を心配させてしまった。
―――全部、自分が仕事が出来ないから。そう思ったら泣きそうになる。昨日のことはもう思い出したくない。だが男たちの嘲りの声、表情、自分の声…そんなものがこびりついて離れない。言われた言葉が頭の中でグルグルとまわる。
ナンバー3であるセイを見ていると何度見ても普通の人だと思う。イチが青の蝶のなかで一番やさしい人だとしたらセイは蝶のなかで一番やさしい人だ。セイと初めて会ったのは同伴として呼ばれた日だった。
平々凡々の顔なナンバー3は、ディメントで一番危険なプレイ内容をしているというのはあまりにも有名な話だった。だからどんな人なのだろうと思っていたら、やってきたのは、口下手な普通の青年だったから驚いた思い出がある。
黒髪の、黒と白がはっきりした目が綺麗な、普通の人は見た通り人に悪意を向ける人間ではなかった。コウくんみたいな人がお金を持たないと言ってチップを多くくれたり、よくコウの心配をしてくれる人だ。
どうしてここで働いているのかと聞いたことがある。小向にビデオを撮られ脅されて入った、そんなにわかには信じられないことを言っていた。だがセイが嘘を吐くはずはないので、好紀はセイの話を受け入れた。
「コウ、セイさん帰っちゃったぞ」
しばらく経ってからイチが声をかけてくれる。イチの顔をみるのが…人の顔を見るのが怖くて、好紀は布団にくるまったままで答える。
「うん……」
「……」
気まずい雰囲気が二人の間に流れる。好紀はイチに合わせる顔がなかった。イチも毛布にくるまる好紀に何と言っていいのか分からないのだろう。布団にくるまる好紀の姿は彼自身を表しているようだったから。沈黙が続き、そんな空気を破ったのはイチだった。
「ご飯食べる?」
「……いらない」
「………コウ…」
断った瞬間、哀しそうに名前を呼ばれて罪悪感に苛まれる。今日ほど彼のやさしさが辛いと思ったことはないだろう。
「……ごめん。食べる気にならなくて」
「…朝食は食べるだろ?」
「…たぶん」
好紀は布団の中で頷く。すると先ほどよりも明るい声のイチが言った。
「じゃあ、明日食べろよ。冷蔵庫にカレー置いておくから」
「…うん、ありがとう…」
やさしく言われた言葉に思わず泣きそうになる。「早く元気になれよ」と肩を叩かれ、身体が大きくビクついてしまう。ドクンドクンと心臓が早まった。好紀の反応で「ごめん…」と申し訳なさそうに謝るイチにさらに心が絞めつけられるように痛む。
―――また、友達であるイチを怖いと思ってしまった。
何も言えない好紀を気遣って、イチは部屋を出て行ってしまった。
「イチ…」
その気配を感じ、好紀は名前を呼ぶ。そっと冷蔵庫を見に行くと「コウのカレー」と書かれた紙が上に乗せられていたサランラップの皿に本当にカレーが置いてあった。好紀は泣きそうになるのを堪え、節々が痛む身体を抱えてベットへ向かった。
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