Re:asu-リアス-

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「みんなに自慢しようと思って」

 明日はいたって普通に話す。別段問題でもなんでもないというように。だからこそ樹は恐ろしくて仕方がなかった。

「なに、いって…」

 明日はいったい、何を言っているのだろう。

 樹は自分でもわかるほど今にも死んでしまいそうなほどか細い声で驚いていた。掠れた声と震える身体が抑えられない。頭がすうっと真っ白になり、血の気が引いていく。実際樹の顔は真っ青で誰から見ても体調はいいものに見えなった。

 動揺と混乱でクラクラする頭をなんとか保ち、樹は明日をみつめる。明日の表情はどこか暗くて、でも笑っていた。

「あ、イズの顔はちゃんと隠すよ? 僕と違ってイズは普通の高校生だし」

 だから心配しないでいいよ。そう普通に言った明日に樹は頭がカッと熱くなる。

「そういうことじゃない!」

「…」

 明日の言葉に樹は大きく叫んだ。自分でも驚くほど激昂している。いや明日は何にも分かっていない。自分が今からすることがどれほどのことなのか。

 樹の大きな制止を無視して明日はケータイを素早く操作している。樹は急いで明日のケータイを奪おうと手を伸ばし、ケータイを掴む。

「イズやめて、ケータイ壊れちゃうよ。痛いから手、離して」

 静かに話す明日から少しも焦りすら感じない。冷静に樹を制止する明日はいったい何を考えているか分からない怖さがあった。静かな声で喋る明日とは対照的に樹の声は切羽詰まっていた。

「嫌だッ、離さない! お願い、早く消してっ!」

 唾が飛ぶほど叫び、明日の手からケータイを取ろうと力を入れるがビクともしない。

「だから大丈夫だって。イズの顔は加工していま消してるから」

 ギリギリと音を立て明日のケータイを奪おうとする樹に対し、明日は静かに力を入れて奪われないようにしている。

「何言ってるの?! そんな画像が流れたらあーちゃん歌えなくなるかもしれないんだよっ?!」

 軽く言っている明日に対して、樹はとても真剣だった。そんな画像が流れたらスキャンダルものだ。大きな問題になってしまうことは身に見えている。それを一切明日は分かっていない。そんな軽々しくそんな画像をアップしたら、明日の人生が変わってしまうかもしれない。

 いつもの樹だったら有り得ない力と行動で、無理やり明日のケータイを奪おうとする樹に明日はため息をついていた。

 そして明日は、衝撃的なことを言った。

「…べつにそれでもいいよ」

「…―――え?」

 大きな衝撃が身体を襲う。いま、なんて、言った?―――樹は明日の言葉に衝撃をうけ、奪おうとしたケータイから手を離す。床に座っている明日の顔はいつも通りに見えた。冗談を言っている表情ではなかった。

 樹は何度も明日の言葉を反芻する。だが何度脳内でリプレイしても、彼の言葉は樹にとって到底信じられるものじゃなかった。

「…僕がリアスで歌ってることでイズと一緒に居られないんだったら、歌なんていらない」

 頭の奥が痺れる。

 明日の言葉の一つ一つが鋭利な刃物のようだった。そんなに思ってくれて嬉しい―――なんてそんな感情よりも樹を包んだのは。

「…やだ…」

 嫌だ。明日が歌わなくなるなんて。樹が堪えきれずボロボロと涙を流していると、明日は少し傷ついた表情をした。それは涙を流している樹には見えないものだった。

「イズ、大丈夫だよ。イズの顔は写ってないから、ね?」

 だからみんなに見てもらおう?…そう子供をあやすように言って、明日は樹に撮った写真を見せる。樹は涙を流した目でその『絶対にほかの人には見せてはいけない写真』を見てしまった。乱れる着衣の男二人、一人は大スター、もう一人は顔がぼかしている一般人の樹である。

 明日の表情は画面越しでも蕩けていることが分かり、下半身は露出し性器も丸出しで吐き出した痕も、精液もはっきりわかる。一方の樹も下半身を出していて、2人で映る写真は淫蕩な雰囲気に包まれていた。この画像を見て想像することはみんな同じことだ。

 その過激すぎる写真は、素人目から見ても流出してしまったらマズイものだとわかる。

 それは明日も絶対に分かっているのだろう。スキャンダルについては明日もいろいろと言われているだろうから。樹は見てしまったものの大きさに、大きく首を振り明日の腕にしがみ付いて懇願する。

「お願い…消してよ……っ」

 樹は頭をたれて懇願する。その写真だけみても生きた心地がしなかった。傍から見ても惨めにみえるほど明日に縋りついて、ガタガタと震える樹に対しての彼の放った言葉はは無情だった。

「じゃあ消す代わりに、彼女と別れて僕と付き合って」

「ッ」

 こんなの脅しだ。樹は大きく息をのむ。

 樹は大きく首を振った。首を横に振ることしか樹はできなかった。明日はそんな樹の反応は予想出来ていたのだろう。すぐさま次の言葉を投げかける。

「それじゃあSNSにアップしていい?」

「―――ッ」

 大きく痛くなるほど樹は首を振る。悪魔の選択だ。嫌だ、やめてくれ。樹はあの自分が初めて行ったリアスのライブの観客を思い出していた。何万人の人があの場にいた。海岸ファンが、一つの写真によってばらばらになる。

 それを想像したら―――明日の周りから人が消えるなんて―――そう思ったら樹は苦しくてたまらなくなった。

「ダメだ…、そんなことしたら、あーちゃん…歌えなくなっちゃう…やだ、リアスがなくなっちゃう…やだ…やだ…」

 明日に縋りついて、考え直してくれと天使から悪魔の笑みに変わった明日に懇願する。嗚咽に交じった懇願は子供のように幼稚だった。だがいまの樹の状態ではこれが限界だった。打算も計算もなく、ただ自分の想いを吐露する。

 明日の瞳に映る自分を気にしている余裕もなく、ただただ懇願し、明日に訴える。

 彼は樹のガタガタと今にも壊れそうな樹をやさしくそっと抱きしめる。温かい明日のぬくもりは今の狂気の状況では不釣り合いで、チグハグで。樹は顔をあげ静かに涙を流し、明日を見つめる。その刹那、明日の淡い瞳が揺れた。

 樹の耳元で深く息を吐くと明日は口を開く。

「…そんなにリアスを守りたいんだね」

 明日にまとっていた空気が変わった。その明日の声はあきれたような、やさしく…少し寂しそうな声音だった。マネージャーと同じこと言うんだね、そうため息と言葉を吐きながら。

 樹は何かを決心したように美しい声で笑い話かける明日から目を逸らせなかった。

「…イズ、もう泣かないで。…うん。分かったよ。ずっと恋人になりたいなんてもう言わないからさ。ね? もう、わがまま言ってイズを泣かせたりしないよ。…これが最後のお願いだから…」

 そうして明日は綺麗な唇で言葉を紡ぎ、『最後のお願い』を言ったのだ。

 

 ◆ ◆ ◆

 

 ――――二日間だけ、僕の恋人になってほしい。

 愛しい明日が言ったおねだりはそんな内容だった。さっきの画像も消すから、と言われてしまえばNOなんて言えない。二日間だけだったら、浮気にも入らないよ。そんなことを言って樹を明日は蜘蛛の巣に巻き付けた。

 愛しい人の罠に囚われた樹はただ捕食されるときを待つことになった。

 日にちはスケジュールが開いたときでいい?そう言った明日はとても愉しそうで、先ほどまでの狂気は一切感じなかった。

 その表情は好きな人とデートができる嬉しい顔に他ならなくて。樹はただ茫然としていた。

 あの写真は樹自身が消した。そうしたほうがいいよね?――そう明日が提案したのだ。樹は震える手でSNSにアップされそうになった写真を削除した。『削除しました』の文字をみてやっと生きた心地を感じた。

 明日の家を後にし、家路についた樹は部屋についても、ベットに寝っ転がってもいまだに頭が追い付いていなかった。頭に浮かぶのは明日の痴態ばかりだ。何か大切なことを考えようとしても、明日の嬌声が頭を冒してく。

「知らなかった…」

 樹は右手を天井に向けるように伸ばし呟く。自分は何も知らなかった。明日のこと。何もかも…。

 好かれているのは知っていた。友情を超えているかもしれない、とは思っていた。でもあんな風に自分に対して強く執着しているとは知らなかった。いや――本当は分かっていたのかもしれない。だが樹は信じられなかったのだ。

 幼いときから一緒にいて、自分だけを一番に優先してくれていた。たくさん遊んでくれた。人気者で、皆の太陽が、何故か自分を贔屓してくれている。それは感じていた。気づいていた。

 ―――長すぎる片思いに心を狂い壊してしまったのは、明日も同じだったのかもしれない。

「あーちゃん…ぅ、ん、すき……っ」

 樹は先ほどの明日を拒絶していた表情とはまったく違う顔をして、愛しい人の性器に触れた右手を舐める。樹は頬を染め、だらしなく舌を出し犬のように手を舐め続けた。少しでも明日を感じたかった。自分と同じ思いだということを実感して感じたかった。

 明日の今日見せた痴態を思い出し、樹は一種のトランス状態に入っていた。

 明日が自分のことを好きだと言ってくれた。だが、それは2人にとっては悲劇に他ならなくて苦しかった。二日間だけ恋人になろうと言ってくれた。嬉しかった。だけど、今日の明日は自分の知っている明日とは違くて怖かった。

「…ッ」

 樹は手を使わずに絶頂に達した。頭の中の明日は――自身の名前を呼びながら射精を繰り返している。それは今日見たもののリプレイだ。熱い息を吐きだし、元からグチャグチャだった下着に精を吐き出す。

「……あーちゃん……っ」

 樹は何度も今日の明日の姿を思い出し何度もイき続けた。夢だと信じたくても、リアルすぎる思い出は「それは違うんだ」と語りかけてくる。

 精神的な疲労と疲弊からか、樹はいつの間にか泥のように深く眠っていた。怒涛の一日を終えた樹の寝顔はこれからのことを思ってか、辛そうに苦しそうにゆがんでいた―――。

 

 

 

 

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