樹は痙攣を繰り返しながら、グチャグチャになった身体をトイレットペーパーで綺麗にさせられ、濡れた下着をまた穿かされてしまった。
樹はもうまともな受け答えは出来ないほど心底疲労しきっていた。
イかされ続けられた身体は馬鹿になったみたいだ。服が擦れるだけの感覚にも反応してしまう。
―――だんだんと身体が熱くなってきた。
嫌な予感がした。腕時計を見ればタクシーで時計を見てから50分は経っている。ドクンと心臓が早まった。
―――まだ大丈夫だよな? 樹は不安でしょうがなかったが、先に媚薬をのんだ明日には何も変化はない。そもそもあの薬が本当に媚薬なのかも分からないのだ。今更心配してもどうにもならない。
自分の体に特に変化がないことを確認した樹はほっと息を吐くと、明日に連れられてトイレから出た。
トイレから出て樹は明日に身体を支えてもらいながら店内を歩いていた。腸内にある異物感はまだ慣れない。高級スーツ店と聞いていたが想像以上に豪華絢爛だ。天井には綺麗なシャンデリアがあって、床は真っ赤でうっとりするほど綺麗だ。ここで庶民で平凡な自分がスーツを選ぶと思うと不思議でしょうがない。
明日はこういったところも慣れているようで堂々と歩いている。そのサングラスをかけた横顔は一般人ではないオーラが出ていた。大スターの明日と普通の男子高校生である自分が並んでいるのはものすごく不釣り合いで、樹は二人で並んで歩いている姿を客観的に想像してしまい落ち込んでいた。
店内を二人で歩いていると、上品な笑みを浮かべる40代のいかにもベテランそうな女性店員がやってきた。
「お客様、本日はどのようなスーツをお求めでしょうか」
歩き方や喋り方が上品で気品があって樹は熱に浮かされながらどきりとした。
さすが高級スーツ店の接客のプロだ。明らかに普通の人ではないオーラと美麗な顔を持った明日にも顔色を一切変えずに応対している。すごいなぁ、と感嘆の息を吐いていると明日が綺麗な声で女性に答える。
「彼と僕のスーツを選びたいのですが」
樹の震える肩を支え、明日は今日来た目的を言った。同時に明日は蕩けた微笑みを樹に向ける。明日の嬉しそうな笑みを見ながら樹は妙にドキドキとしていた。
明日はこれから向かうディナー用の樹のスーツを買ってくれるらしい。樹がスーツを持っていないと言うと明日は驚いていた。明日に買ってくれるのは悪いよと言ったのだが、恋人に物をプレゼントしてみたかったんだよねぇ、とウキウキで言われれば樹は断れない。
…やっぱり自分は明日に甘い。樹は自分の押しの弱さにがっかりする。だが今は明日の夢を叶えるためだ。だから自分のそんな悪い部分も今だけは許そうと思った。何より明日からのプレゼントを貰えることが樹には嬉しかった。今度何かお返しをしなくてはいけないな――そう樹は心に決めた。
そしてここに明日は樹を連れてきたというわけだ。デートとして最高のプランだが、ローターと媚薬付きの買い物ではその価値がずいぶんと下がるのにな――樹はそっと悪態をついた。
樹はいかにも芸能人御用達のスーツたちに囲まれて、状況が状況だがドキドキしていた。
「そうでございましたか。…そちらのお方のお顔がすぐれないようですが、いかがなさいましたか?」
人に支えられ、汗を流し、顔が赤い樹の様子を見て女性店員は心配そうに問いかける。そんな女性の問いかけに、明日はにこやかに笑って見せた。
「あぁすいません。ちょっと彼は…微熱があるようで…僕も行くのはやめようって言ったんですけどここのスーツを今日どうしても着たいって言われまして…」
明日は切なげに言ってその場にいた女性店員たちの心を虜にした。それは全部嘘なんですよ――なんてそんな嘘みたいな話誰が信じるのだろう。樹は気づかれない程度の小さなため息をついて、真剣な眼差しで明日の話を聞く店員を見つめた。
その店員の表情は明日の言葉を信じているもので、樹は申し訳なさとやるせなさでいっぱいになる。
話を聞いて同情したベテラン店員は「まっ、それは…早く決めなくてはいけませんね」と早口に言って、樹に心配そうな視線を向けた。その表情は、まるで息子を心配する母のような目だった。樹は彼女の視線にドキンとしてしまう。その綺麗な目を見て早くここから逃げたいと願いをさらに強くした。
樹はそして拷問のような――衆人環視みたいな状況を味わった。
プレタポルテですぐに仕立てられる、それが売りのスーツ店は樹の様子を知るやいなや急いで樹を採寸用の大きな更衣室にいれた。そこには採寸する女性たちが3人ほど中にいた。
女性に自分の熱い腕をあげられたところで、はたと気づく。ローターを入れていることがばれるのではないかと。コードレスで今は振動していないし、パンツも拭いてもらったが濡れているし、まずいのではないだろうか? いや、まずいどころじゃない。紛れもなくアウトだ。
「あ、あーちゃっ」
樹が叫んだが明日もスーツを仕立てるといって採寸を受けていることに気づく。樹は思わず乙女のように胸を隠す。そんなことをしても、機敏に動く彼女たちプロの手からは逃げられるはずもなく。
ヤバイヤバイヤバイ…と考えているうちに、シャツが捲られた。
「ひゃっ」
肌を触る女性の手が冷たくて樹は声をあげてしまった。バクバクと心臓が痛いぐらいに張り詰める。ウェストを測られ、そのままズボンを脱がされる―――と思ったとき、店員がズボンの上から足の長さを測っていることに気づきほっと胸をなでおろした。
だがそんな安堵はすぐに打ち消された。
「お客様、採寸が終わりました」
そっと一人の女性に肩を触られた瞬間―――樹の身体に電撃が走った。
「うひゃっ」
樹は思わず身体をのけ反らせる。男とは思えないほど高く甘い声が出てしまった。店員が急に声をあげた樹に驚き、傍にいた人たちが駆け寄る。
「っお客様?!」
「…っ、はー、はっー、っ…っ、だ、だいじょ…ぶ、です」
―――なんだ今のは―――?
不安げに見つめる店員さんに心の底から謝り樹は身体をゾクゾクと震わせる。荒い息を繰り返す樹は、誰から見ても通常の樹ではなかった。震える身体、真っ赤に染まった身体、潤んだ瞳、じっとりと汗をかいている様子はそういった趣向の者から見たら劣情を誘うものだろう。実際店員のなかにはベットの上で乱れるような樹の姿に唾を飲み込む者もいたのである。
ただ触れられただけなのに、電流のような感覚が走った。女性たちが心配そうに樹のことを見ていることが分かり、樹は顔を赤らめる。彼女たちは心配そうに見ているだけのにどうしてだろう、身体の底から熱くなって体中がゾクゾクと震えてくる。
視線を身体に―――自分に向けられていることが分かるとどうしようもなく身体が疼いて仕方がない。
樹は荒く息を繰り返し服を整える。うまく考えがまとまらないまま、先ほどよりも身体が熱く火照っていることを感じながら。
「お客様…お手を」
「…っは、ぁ」
ふらふらになって歩く心配した店員が腕を優しく掴む。瞬間、甘いしびれが走った。樹は頭が真っ白になる。
「お客様?!」
店員が悲鳴をあげた。樹はその声のままにガクンと足を滑らせ樹は床に突っ伏す。樹はその床に膝をぶつけた痛みよりも、身体の熱さのほうが勝っていることに気づいた。自分の身体が火照るように熱い。触られて電流が走る。自分の粘膜が奥に入った異物をきゅうきゅうと締め付ける感覚がした。
―――まさか。
自分の考えに冷や汗を流して樹が床に四つん這いになって倒れこんでいると、上から甘く蕩けるような低い声が聞こえた。
「…イズ?」
「も、申し訳ございませんっ、私どもがついていながら…」
「あぁ、大丈夫。怒ってないよ。…イズ、どうしたの? 一人で立てる?」
誰かがしゃべる声をききながら、樹は頭がしだいにぼんやりしてきた。熱い。身体も頭も。言葉を認識しようとしても、せいぜい目線を上げることしかできない。
「…イズ、捕まって。歩ける?」
「…う…ん」
樹はやっと、声の主が明日だと認識する。結局樹は椅子で休むことになった。休んでいると、やっと思考が少しだけ出来るようになった。だが感じるのは強烈な身体の疼きのみだ。
身体が熱い。喉が渇く。だが唾液は止まらない。樹は自分の唾液で乾いた喉を潤す行為を何度も、何十回も明日が樹のスーツを選んでいる間行っていた。先ほど触れられたところが甘く痺れている。何もされていないのに、腰が揺れる。身体が感覚を求めている。
自分の身体がおかしいということは自分でも分かった。きっと飲まされた媚薬のせいだということも。懸念していた効果が現れたということだとも。だが分かったところで樹は何も出来ない。何の対抗策も浮かばない。浮かんでもたぶん明日に許してもらわないと、きっと出来ない。樹は荒い息を繰り返しながら、ただ明日を待ち続けていた。
熱い身体を持て余していると、スーツ姿の男が目の前にいつの間にか立っていた。
「…イズ」
「っ」
甘い香りですぐわかる。明日だ。樹は明日の姿を見て椅子から落ちそうになる。ストライプで紺のスーツを着た明日は、あまりにカッコよかった。スタイルのよさを引き立てるためにデザインされたスーツは明日の魅力を余すことなく伝えていた。さすがは芸能人御用達の有名高級スーツ店だ。
先ほどまで私服だった明日も十分カッコよかったが、今の明日はその何倍もカッコいい。樹は明日のスーツ姿を見たことがなかった。実際には雑誌の特集やCDのジャケットで着ているのを見たことがあるが、実物で実際に見たのは初めてであった。
樹は呆けた顔で明日を見つめていると、明日は恥ずかしそうにしていた。樹があまりに見惚れていたからだ。
「…あ、っ、ご、ごめ…」
顔をさらに赤らめ荒く息をする樹に、先ほどのはにかむ笑みから意地の悪い笑みに変わったことを樹はまだ知らない。
「効果出てきたんだね…僕もそろそろかな」
「――ッ」
うっとりとした顔で囁かれ樹は先ほどよりも背中にビリビリとした震えが走る。明日の目が熱を持って樹のことを見ている。その欲望を感じさせる瞳の熱に樹の身体は喜びを感じていた。ただ見られているだけなのに樹は身体が疼いて仕方がない。
視点の合わなくなりつつある樹に明日はできたばかりのスーツを見せる。
「イズ見て…イズのスーツ出来たよ。嬉しい?」
「う…ん…」
黒いスーツは、シンプルなもので樹によく似合うことだろう。樹は明日の言葉に大きく頷く。樹はもう肯定の言葉しか言えなかった。
「着替えよっか」
「……うん…」
明日の言葉にけだるげに答える樹を連れて、彼は店員に2人きりにしてほしいとだけ告げ大きな鏡に囲まれた更衣室に入った。樹はカーテンが閉じられるやいなや、我慢できずに床に突っ伏す。冷たい床が気持ちよくて目を瞑る。もう限界だった。身体が熱くて仕方がない。
部屋には荒く息をし床に倒れこんでいる樹と、それを見下ろす明日がいた。
恋人同士での二人きりの密室で何も起きないわけがない。
「…んっ、……」
「ふぐっぅ」
床に倒れこみ荒い息をする樹に明日はしゃがみ込んで口づけをする。突然の舌を交わう深く激しいキスに樹は脳に電流が走ったような快楽を与えられた。樹は熱い脳で目の前がチカチカしているのを感じる。自分が自分でなくなってしまうのではないかという恐怖。それを確かに樹は感じていた。
ぴくぴくと痙攣を繰り返し、キスを受け入れる樹の表情は堕落しきっていた。
普段の樹では絶対に見られない痴態に支配者は甘い甘い蕩けた顔をした。その表情は獲物を食らう獰猛な捕食者のものだった――。
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