RIP IT UP

第7話

56

 

  同じ男だというのにこの圧倒的な雄の色気。自分と同じぐらいの身長と体格なのに、押そうとも動きはしないこの力強さ。

 義孝はこの告白された男に押し倒され、ある意味で圧倒されていた。そして徐々に危機的状況だというのに冷静になっていく。眼鏡越しに見える彼はとても白くて。

「馬鹿じゃねぇの…」

 白い部屋にいる透はすごく似合っていて。そしてまた自分に告白する透はとても綺麗な気がした。そんな今どうでも良いことを考えている自分が嫌で呟いた義孝の憎まれ口は、白すぎる透の居る空間に溶けて消える。

「僕は真剣です」

 いつだって自分は真剣だという透の目は確かな熱を持っていた。真剣という言葉に熱い欲を感じる。

 熱い息を吐く透に義孝はジリジリと追い詰められていることを確かめさせられる。

 ―――俺も逃げずにちゃんと向き合わなくちゃいけないのか…?

 義孝の中にぼんやりと浮かんだ思い。義孝はごくりと唾を飲み込む。そしてしっかりと透を見つめた。そこには雄と形容したほうが相応しい男の顔をした透の貌があった。ゾクリ、と背中に電流が走る。その顔は何度も違う人で見た顔だったから。

 正直言って義孝は恐ろしかった。欲の色を見せる男の彼は、違う男を思い出すからだ。

 あの時の自分の惨めさ、辛さ、生きづらさ、焦燥さが脳内に駆け巡るから―――…。

 きっと透は義孝より弱い。きっと――少しの差で義孝のほうが強いのだ。だが義孝は透を押しのけることはできなかった。しようと思えばできるのに、しなかった。

「なんで……、」

 俺なんだ、という義孝の言葉は小さくなって消えた。

「…理由を話して貴方が納得するとは思わない」

「っ」

 透の熱を帯びた声にドキンとする。義孝の全てを見つめる視線に義孝は思わず目を逸らした。―――そんなに見つめるな。そんなに見られたら俺は…。

「―――いいんですよね?」

 義孝はその声にはっとする。低く、甘い、熱い声。脳が痺れるほどの甘い囁きだった。透の美しい顔が息のかかる距離にいる。彼の体中から甘い香りがした。

 何がいいのか、なんてことは聞かなくてもわかった。はぁ…っ、と熱い息をあげ義孝を急かす透に聞かなくても義孝はよく分かっていた。

「いいわけないだろ…ッ」

 自分にのしかかる透に何とか抗おうとする。だが、声は思っていたよりも出なかったし、身体も思うように動かない。

「好きです…」

 はぁっ、と熱い息が首元にかかり義孝はビクつく。

 透の陶酔しきった赤い頬と表情に、義孝の声なんて聞こえないのだと気づく。甘い声を囁き透は暴れようとする義孝の手首を絡めとり、逃がさないと力強い腕で拘束する。透のベットは大きくて長身の二人が乗ってもまだスペースがあった。そのベットに、大きくギシギシと鳴り響く音が鳴った。それは義孝の囁かな抵抗だった。

「ふざけんな…っ」

 義孝の抵抗する声を聞こえないのか、うっとりした表情で自分を見る透が恐ろしかった。義孝が事情を知らない他人がその表情を見たら卒倒しそうなほど怒りの表情をしているのにも関わらず、それを無視し透は行動を続ける。その目は現実を見ていないような、倒錯的なものだった。

 どこでスイッチはいったんだ、この人――!

 嫌だとかぶりを振る義孝の首元に透の熱い息が吹きかかる。義孝の喉仏に唇を這わせ、弱い力で肌を吸う。

「ッぅ」

 義孝はゾクッと感じ身体を震わせる。小さな呻きは透にも聞こえたらしく、さらにその声で興奮したのか舌を這わせ、敏感に震える義孝の反応を楽しんでいた。

「この…変態がっ」

 熱い舌の感触に戦き、無意識に腰が揺れる。義孝は男である自分にこんなことをして馬鹿じゃないのか?!と、透を睨む。義孝の罵った言葉に思うことがあったらしい透は、顔をあげ義孝を見据える。

 その表情は義孝に圧倒的緊張を与える。男の色香の象徴ともいえる透の精悍な顔が野獣の眼光を光らせ、うっとりとして義孝を見ていた。普段の紳士的な表情ではない雄のものに義孝は固まってしまう。

「変態ってこういうことする人のことでしょう?」

「は? あ、うわあ…」

 紳士的な笑みを浮かべながら、透は軽々と義孝の長い左足を持ち上げ自身の肩に乗せた。そして無防備にベットから浮いた義孝の尻を長い指でそっと撫でる。突然のことに義孝は驚き、いつも以上に間抜けな声を上げてしまった。

 そして自分の恥ずかしい格好にじわじわと羞恥を覚え、脚をジタバタとさせる。だが太腿の部分を掴まれ、それは阻まれた。

「馬鹿野郎っ、離せ! 馬鹿!」

「あぁ、義孝さんに今日は何回も馬鹿って言ってもらえる…最高だ」

「何頭の沸いた発言してるんだ?! 離せアホがっ、セクハラ医者が!」

 義孝の罵った言葉を透は嬉しそうに聞いている。これは本当に頭がいかれたのかもしれない。義孝はいろんな意味でぞっとした。好きな人に言われて喜ぶものじゃないだろうと思った。

 だがすぐその後の透の行動にさらに身体がゾッと震えた。ツンツン、と義孝のズボンの膨らみを指でつつくと、そのまま後ろに指は移動する。そのまま義孝の尻を鷲掴みにすると、あろうことか両手で義孝の尻を揉みしだく。

 思わぬセクハラに義孝は目を剥く。

「気持ち悪い! やめてくれっ」

 本気で悲鳴を上げる義孝とは対照的に透はうっとりと顔を義孝の尻に寄せた。

「ああ…何度触っても義孝さんのお尻は最高だ…。しっかりと引き締まってて、小ぶりで、何とも言えない弾力があって……ずっと触っていたい…好きです…」

「おい俺の尻に告白すんな! この変態!」

 揉みながら低く甘い低音ボイスで囁くことじゃないだろうが!

 義孝はそう思わず言ってしまいそうだった。男の尻を触って何が面白いかもわからないし、義孝自身自分の尻にそんな価値があるとは思ってもない。だから男の手に自分の尻が揉みまくられるという悪夢はまったく未知の気持ちの悪さだった。

 透の手がいやらしく義孝の尻を揉むのが嫌で暴れたが、どこからそんな力は出ているのかと思う程の馬鹿力で掴まれているのでまったく透に歯が立たない。

「ッぁ」

 揉まれると、どうしてか身体が揺れる。下半身に疼くような刺激がやってきて、義孝は苦悶の声をあげ眉を顰める。

「僕…義孝さんに初めて会ったときお尻に一目惚れしたんです…。だから、」

 見たい―――。

 グリッと、ズボンの上越しに窄まりを抉られ義孝は身体を反らす。思い出したくもない記憶が蘇る。身体があの時の感覚―――快楽を思い出す。義孝はどっと汗が出て、改めて目の前にいる獣を見る。何度も押しのけようとしても、義孝の尻を掲げられた格好ではどうしようもできない。

「あ、ぁ…っぅ」

「義孝さん…義孝さん…」

 透は熱く息を乱し義孝の名前を呼ぶ。

 ――――嫌だ、そんな切ない声で呼ばないでくれ…。

 義孝は震える腰をなんとか抑えようとする。だけれど目の前の獣は義孝をさらに翻弄させた。

「ここ、弄りたい…、触りたい…っ」

 彼は切羽詰まった声で宣言すると手で尻を大きく割り、布越しのみえない穴の奥を探り抉る透に義孝は身体を震えながら抵抗を続けた。腰が揺れ、下半身に熱が集まる。それは義孝にとって未知の感覚で、身体中が熱くなり、羞恥で頭がおかしくなりそうだった。

「ふ、ふざけんな…っ、ッ、そんなところほじくるな…!」

「嫌です、もっと喘ぐ義孝さん見たいから…」

「っ〜〜〜〜ぅぅう」

 ぐりぐりと指で布を押し付けるようにそこを抉る透に義孝はイヤだとかぶりを振る。奥へ奥へと進む指に、布が抵抗しているが、小さな入口は侵入を許す。

「――――ッ」

 声は喉から張り付いた情けない呻き声が漏れる。声にならない悲鳴が出てきて止まらない。男であるのに尻の秘部を弄られて感じてしまう自分が嫌だった。思い出したくないのに、あの頃感じた確かな快楽を思い出してしまう。

 じっとりと汗がズボンに染みてまとわりつくのを感じた。きっと抉られた場所も汗で湿ってきているのだろう。義孝は熱い息を堪えながら、熱をどうにか鎮めようとする。だが久しぶりの刺激に男の義孝が耐えられるはずもなかった。

 やがて義孝のそこは反応し、ズボンを張り詰めさせてしまう。その様子に気づいた透は愛おしそうに膨らんだそこを撫でる。その刺激にすら感じてしまい義孝は泣きたくなった。

「ぅっ、ぐっぅ…」

 義孝は恨みたっぷりににやにやとしている透を睨む。だが透はそんな義孝を見てさらに笑みを深くする。

「どうしてそんな顔をするんですか? いやらしい貴方は綺麗なのに」

 ―――こんな惨めな自分が綺麗なんてありえない。

「…馬鹿じゃねぇの…」

 くすくすと笑う透に義孝はたまらなくなって顔を覆う。透の表情を見たくなかった。悪態を吐く義孝を追い詰める手は大胆に動いた。

「ッ」

 義孝が息を呑んだのは、膨らんだそこを透がやんわりと触ったからだった。硬くなった性器の形を確かめるような動きに義孝はウッと呻き声を上げ、腰をビクつかせる。買ったばかりの服がだんだんと汗で湿っていく。選んでくれた店員に申し訳ない気持ちでいっぱいになっていく。

「義孝さんのここ…大きい…」

 透の喋る言葉の語尾が甘く蕩けそうで頭がクラクラした。

 透の手は見知った乱暴なものではなく、とても優しい宝物に触れるものだった。義孝は息を吐き出しながら――馬鹿じゃねぇの…、と何度も呟いた言葉を快楽でぼんやりした頭で自分に対して使ったのだった。

 

 

 

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