RIP IT UP

第7話

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 頷いてしまってから、どうして頷いてしまったのだろうと思った。だけれど、透の声に誘われるまま―――甘い蜜がかけられた蜘蛛の巣に飛び込む哀れな虫のように義孝は首を縦に動かしていた。いざ頷いてみても、どうしてそうしてしまったのか分からなかった。

 触ると言って引っ込みがつかなくなった義孝は震える手で透のそこを触ってみる。瞬間、ビクッと透の性器は震えた。なんだか粘土を触っているような、得体の知れないものを触っているような、不思議な感触だった。自分と同じものがついているのに、なんだか別の生き物のようだった。

 下着の上からでも形が分かる程膨らんでいたそれは、義孝の目から見ているととんでもなく大きく見えた。いや実際に彼のそのサイズは一般的な男性のものより大きいからそう見えて当たり前なのだが、義孝は滅多に自分以外の性器を見る機会はなかったのでつい狼狽えてしまったのである。

 ギシ…と、ベットの軋む音が耳に残って消えなかった。真っ白の部屋で行っている自分たちの行為が妙に恥ずかしくて、いけないことをしているようで、後ろめたくなる。今すぐに逃げてしまいたくなる。

 だけど、義孝は決めたのだ。≪アイツ≫とは違うから。俺は逃げないんだ、と。

「義孝さん…」

「伊勢さん…」

 はぁ…、はぁ…、と雄の息が義孝の耳を犯す。

 目の前の男の色気が、雄の香りが、欲望が、義孝の頭をだんだんと侵食していく。もっとして、もっと触って、もっと見て、もっと…――――。

 ―――自分の呼ぶ声がそう叫んでいる。それが分かる。分かってしまう。

 ―――彼の期待に自分は応える義務がある。

 どうしてかそんな思考にさせる雰囲気が彼にはあった。見なくてもいいのに見てしまう。その悪魔の顔を。蕩け切った透の美しい顔にドキリとする。だがその瞳には確かに欲望の色が映っていた。

「……下手でも文句は言うなよ」

 義孝は期待に満ちた顔をしていた透を見てしまい、バツの悪い顔をした。そして義孝は予防線を張り、もう一度しっかりと握りなおす。握り直してもやはり手にある違和感は残る。

 ああ、でもと思う。

 嫌悪感しか湧かずただ震えることしか出来なかったあの頃より、ずいぶんマシだと。違和感はやはりあるが、嫌悪感はない。それはやはり透だからなのかもしれない。こんなことを自分からしたいと思ったのは…――嫌じゃないと思ったのは初めてだ。

「は、はやく…」

 切羽詰まった滅多に聞けない彼の声にドキリとする。

 ―――ほら、早くしろぉっていってんじゃん。

 急に蘇る特徴的なイントネーションのある声。義孝はその声は彼と違うのだ、と首を小さく振る。

「早く…してくれないと…、僕…どうにかなりそうです」

 ―――舐めないんだったら、妹ちゃんどうなってもしらないよぉ〜?

 頭の中に思い出したくもない忌々しい記憶がフラッシュバックする。

「ッ」

 義孝は懇願する透の声と決別した声が混じる脳内をどうにかしたくて、普段の自分だったら考えられないようなことをしていた。

「ングッ」

「―――――ッ」

 鼻につくむせ返る男の匂い。口にある異物感。義孝はすぐに吐き出したくなる気持ちを抑え、そんな嫌悪感を振り払うように口をしごく様に動かした。

「よし、た、か…さっ、んっ?」

 突然の刺激に驚いた透が困惑と甘い色を乗せた声を部屋に響かせる。透がバウンドした腰が義孝の喉奥に突き刺さる。義孝は痛みに涙を浮かべ、無我夢中で普通だったらありえない場所にしゃぶりつく。

 透が驚くのも無理はない。義孝でさえ、自分のしていることに驚いているのだから。

 義孝は同性である透の性器を咥えていた。透のソコはきっと一般的なものよりかなり大きい。しかも太くて長いのだ。そこまで男として完成された透にとてもムカつくが、それはただの義孝の醜い嫉妬だ。

 ドクドクと脈打つ彼の性器は男の義孝の口でも大きくて、顎が外れそうになる。ミチミチと口腔を犯すものに自然と義孝の目からは涙が溢れ、うまく呼吸が出来ない。透の股間に顔を埋める自分はきっと惨めな姿なのだろう。羞恥があったが、義孝はそんな感情より使命感の気持ちが大きかった。

 彼を気持ちよくさせたい、その一心だった。透の切羽詰まった顔を見て、そんな想いに駆られた。

「っ…」

「ん、っぅふ、…んぐぅ…っ」

 義孝は何とか顔を動かし、口をすぼませ、吐き気と抗えない嫌悪感と戦いながら一生懸命に透に奉仕していた。それはもう献身的に、執拗な程、真摯に奉仕を続けていた。

 絶対に初めてではここまで出来ない義孝のその行為に、透は与えられる強烈な快楽に悶えながら目を細める。それは昔、いじめにあっていたと言う義孝の自分には詳しく語らなかった過去が、想像できてしまうものだった。

 透の脳内にあの月村のモノを美味しそうに咥える目の前の愛しい男の姿が浮かんだ。自分の想像した鮮明な光景に、脳が焼き切れるほど激しい衝動が襲う。

 義孝の過去を暴いて、そのまま欲望のままに腰を動かして喉奥にぶつけてしまいたい。愛しい彼を普段の彼からは想像も出来ないほど淫らにして滅茶苦茶にしてやりたい。もっともっと自分だけを見ていて欲しい。

 そんな醜い嫉妬と、同時に愛しい人が穢される興奮が透のなかに湧きあがる。

 だが義孝の苦しそうに自分の性器を咥える媚態を見れば、そんな自分の浅はかな欲望より義孝の献身的な想いを感じたかった。

 透のことを気持ち悪いと罵った彼が、ここまでしていることが奇跡なのだから。

 本当に夢みたいで、頭が、身体が、魂が、天国へ逝ってしまいそうだ。

「…っ」

 透は様々な想いと熱を吐き出すように、荒く呼吸を繰り返す。

 反対に義孝は苦しかった。喉奥に当たるほど深く飲みこみ続けているのだから、それは当然のことだった。しかし義孝の耳朶に響く、気持ちよさそうな透の荒い息を聞いていると苦しさよりも使命感のほうが打ち勝った。いつの間にか悪夢の日々の記憶は忘却の彼方に消えていく。

 そしてついに透が限界そうな声を上げる。

「よ、し、…っ、たっ、も、出ますっぅ」

 義孝の頭を撫でるように動かし、透は限界を訴える。撫でる行為に腰が揺れる。頭を撫でられただけなのに嬉しくて、気持ちが良かった。義孝はその嬉しい気持ちのまま舌を敏感に動く先端に向けた。小さな窪みを抉るように刺激した――――その瞬間。

「―――ッ」

「んぐぅうっぅ」

 透の腰が大きく震え、義孝の口の中に弾けた。透は声にならない悲鳴をあげ、義孝は呻き声をあげた。

 快楽をむさぼり小さくのけ反る透の姿は妖艶で、雄の色気があった。大量の雄の精は義孝の口腔をさらに犯す。喉奥まで勢い良く飛び散り義孝は身体を震わせる。あまりの衝撃に頭が真っ白になって腰が揺れた。まるで気持ちいいと身体が教えたいように。

「ンガっ、んんぅ…?!」

 大量の精は口から収まりきれずボタボタと落ちる。身体がガタガタと震えが止まらない。身体が馬鹿になったみたいだ。喉奥の精を受けながら、義孝は感じてしまっていた。性器に一切触れられていないのに、自分はどうしてしまったのだろう。

 混乱白濁を透は指で拭う。そしてその拭った自分の愛液を塗り込むように義孝の顔に触れた。その変態すぎる行為に義孝は透のを咥えながら鋭く睨む。

「よしたかさん…」

 透は睨まれたのに関わらず、うっとりとした声で義孝を見つめている。義孝の頬を大きな手で包み込み、咥えている顔を仰いだ。

「んふ…っ、んぶっぅ」

 蕩けた顔をしたまま、透は性器を義孝から抜かなかった。義孝が動かそうと頭を移動させようとしても、グッと顔を固定してしまっている。義孝は性器を噛むこともできたが、そんな恐ろしいことはできずに離してほしいと目で訴え呻くしかできなかった。

 だがそんな義孝の訴えは興奮した透には伝わらなかった。

「あがっ」

 喉奥に大きな衝撃があった。義孝は何をされたか理解できず、ただ断片的に打ちつけられる衝撃にベットの上で悶える。

「が、まんしてたのに…、義孝さんがそんな顔するから…っ、僕っ」

「んぶ、ンぅ、っふ、ぅあっ、ぅ、んがぅっ」

 透の熱に浮かされた声は一切義孝の耳には入ってこない。ギシギシと大きく揺れるベットの上で義孝は全身を犯されていた。脳まで犯される感覚に義孝は痙攣を繰り返す。義孝は顔を固定され透に腰を打ちつけられていた。

 激しいその律動は昔されたものよりさらに苦しいものだった。口にミチミチと大きな性器が入った状態で狂ったように腰が打ちつけているのだから、義孝にかかる負担は相当なもので、ロクな抵抗も出来ずされるがままになるしかない。打ちつけの音と、ギシギシと壊れそうなほど揺れる音がその行為の激しさを表していた。

 義孝はえずきたくなるのを堪え必死に喉への衝撃に耐えていた。涙が目頭から自然と溢れ、口からは先ほど出した透の愛液が飛び散る。透の茂みが鼻に当たり、袋は顔に容赦なく当たる。性器の匂いに鼻の奥まで犯され、義孝は上手に呼吸が出来ないでいた。鼻に広がっていく雄の香りに脳がおかしくなってしまいそうだ。

 義孝は色気もないう大きな呻き声を上げ、腰を揺らしていた。腰を揺らすという行為は全く無意識なものだったが、透の目にはとんでもなくいやらしいものに映り、さらに興奮をかきたてることになることを義孝は分からない。

 そして他の人から聞くとただの野太い痛がる低い義孝の悲鳴は、透の嗜虐心を煽る。

「はぁ…っ」

 透の熱い息が義孝の首筋に当たる。そんな感覚も感じないほど義孝は口腔の責めに苦しめられていた。穿つスピードが徐々に早まる。喉が苦しい。痛い。雄の匂いで狂いそうになる。

「んんぅうううぅ」

 義孝は悲愴めいた声をあげたのは透の足が自分の股間に触れたからだった。透はしゃがみこみ強制的な奉仕を続けている義孝のぶらさがっている部分を、足で器用に揉む。それは義孝を気持ちよくさせようとしている動きで、義孝はカァッと身体ごと顔が熱くなるのを感じた。

 足で不本意に嬲られたそこはすぐに勃ちあがり、義孝に快楽を呼び起こす。足でしごく様に動かす透の腰はスピードを弱めることはなかった。義孝はまさに上も下も脳も犯された状態になり、あまりの倒錯的な状況に身体も頭もついていかない。混乱したまま強制的に透に快楽を叩き込まれる。

 白いベットは愛液で汚れきり、シーツはグチャグチャに皺がついていた。それは普段使っているベットとはあまりに違うものになっていた。それを咎めるはずの住人は嬉しそうに――蕩けた表情をして自分の愛を―――そして愛しい人に快楽を教えこんでいた―――。

 

 

 

 

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