「な、なにすんだよッ!」
俺は口を覆った。今されたことは紛れもなく『キス』で、しかも俺はこれが初めてだった。ファーストキスが、男で…よりにもよって『ヨウ』だなんて!
ありえない、何で、どうして?…そんな疑問が頭の中で駆け回る。俺の混乱しているのを置いて、陽人はさらに驚くことを言ってきた。
「お前は知らないかもしれないけど、幼馴染同士って普通キスするぞ〜?」
「それは絶対に嘘だろっ」
いたって当たり前のことのように陽人は言う。俺でも分かるが、そんなの普通じゃない。陽人が普段通りの表情で言うから一瞬信じそうになった。俺は顔を真っ赤にしながら大きく首を横に振る。
「嘘じゃねえよ」
陽人に顔を近づけられて俺は思わず突き飛ばした。遠くになった陽人の顔は一瞬だけだった。俺は腕を掴まれ、抱き寄せられる。陽人との身長差は1センチ差なので、息のかかる距離に顔があり驚き目を瞑る。
「…ッ」
ドクドクと二つ分の心臓の音が聞こえた。肌に感じる熱が、陽人のものだと思うと心臓が妙に早まった。
深夜の公園には、夏の虫の音しか聞こえない。肌に蒸し暑さだけではない汗が流れた。離せよ、と言おうとした瞬間陽人が口を開いた。
「俺のにおいとお前の汗のにおいがする…」
「…っ?! そんなところ嗅ぐなッ、もう離せって!」
陽人の鼻が俺の頭皮をクン…と嗅ぐ。そんな変質的な行為に俺はゾッと寒気が走る。
俺は陽人がどこかいつもと違う事を感じていた。逃げないといけない、そう思っているのにしっかりと抱かれた腰の腕を振りほどけない。陽人は俺より細いくせに、俺より力が強いのだ。言葉で訴えても、顔をしかめても陽人は全く離してくれない。
「ヤダね。お前俺の言う事ぜーんぜん聞かないし」
陽人はよくわからない事を言って、俺を混乱させてくる。
「急になんだよ、離れろって! いい加減うぜえ!」
身体同士が触れているからなのか、俺の身体も陽人の身体も熱くて仕方がない。俺は今すぐに陽人から離れたかった。だって、熱くてウザいし、どうしてか胸が痛くてたまらなかったから。
「くっついたって、いいだろ別に。幼馴染だし。もしかしてドキドキしてんの?」
陽人はすぐには理解できない言葉は発した。俺はしばらく固まった。意味を理解した瞬間、恥ずかしすぎて身体を暴れさせた。いつの間にか陽人と俺は逃げる者と追うものの関係性になっていた。俺が逃げて、陽人が捕まえる。俺は必死に暴れたが、陽人の腕の力は強く密着から全く離れる事は出来なかった。
「〜〜〜〜?! 幼馴染とか関係ないだろっ、ってヨウ、おま、どこに手つっこんで…っ?!!」
俺が思わず叫んだのは、陽人が俺のズボンに手をいれてきたからだ。突然の刺激に俺はのけぞり、体中がカーッと熱くなる。陽人は暴れる俺を押さえつけ、下着の中に手を突っ込んできた。そしてあろうことか俺の息子をそのまま掴んできた。
「フニャフニャじゃん」
感触を確かめながらクスクスと笑う陽人が恐ろしい。俺は固まり、体全体がガクガクと震えた。
絶対にこいつはおかしい。
「何触ってんだよやめろよっ」
冗談、悪ふざけにしてはやりすぎている。俺が気の置けない仲の幼馴染だからってこんなことやっちゃいけないだろっ。
手を引っ張ろうとしたけど、全然力が入らない。生命線とも言える性器を初めて握られて、俺はまるで生まれたての小鹿のように震えていた。この間『モノ』は見られてしまったが、触れられてはいない。陽人の行為は俺にとって混乱させることばかりだった。
そんな慌てふためる俺を嘲笑うように、陽人が言った。
「知らないの? この前も言ったけど、幼馴染なんだからちんこに触るのなんて普通だって」
「それは絶対に嘘だろっ、―――――ギャーーーーッ」
俺は今まさに起きてしまった事に野太い悲鳴を上げて卒倒しそうになった。だって、目の前に、お、俺の性器がポロンと出てきてしまっていたからだ。俺のズボンをためらいもなく陽人が下したせいで―――。
俺が小学生の時同級生が女子の前でズボン下ろされて、女子もその同級生も泣いてしまった場面を目撃したことがある。俺も今ならあの二人の気持ちが…いや…男子の気持ちが分かる。ズボンを下ろされるなんて死にたいし、泣きたい。
陽人は何が面白いのか趣味が悪くニヤニヤと愉しそうに笑っていた。
「もっと色気のある声だせよな〜、あ〜でもむしろお前らしくて興奮するわ。毛やっぱり濃いし」
興奮する?!
陽人はやっぱりどこかおかしくなってしまったのだろうか。
男の性器を見て興奮するとは、暑すぎて頭が沸いてしまったのかもしれない。俺の息子をジロジロと穴が開くんじゃないかと思うほど見られ、俺は恥ずかしすぎて穴があったら入りたかった。今人が来たら俺は間違いなく「露出狂」として捕まる。最悪の状況だった。まさか外で幼馴染とはいえ、他人に性器を見られるなんて。
―――陽人は要領がいいから逃げられるだろうけど。
そんなアホみたいな現実逃避をしていたら、陽人の行為がエスカレートしていった。
「汚ねえ、離せ! んな所、ばい菌やばいだろ!」
「くくっ…、ホントお前ってバカだなぁ〜、何の菌に感染するんだよ?」
俺の罵声を笑いのらりくらりと躱し、俺の性器を陽人はまるでオモチャみたいにプルプルと動かす。俺の息子はされるがままに上下に揺れる。
ほんとに恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい。
「ば、バカはお前だ…ウゥ゛」
陽人が、俺の触っている手を動かし始めた。突然の刺激に俺の腰は馬鹿みたいにガクガクと震えた。刺激を与えられて、沸き上がるこの気持ちよさは世に聞く『快感』ってやつなのかもしれない。
ああ、嫌でも思い出す。陽人が俺にオナニーを教えてくれた時の事…。あの時の手つきと今の動きが一緒で、俺は変にドキドキした。あの時はさすがに触られなかったけど。
「ひぃ、うっ、う゛〜…」
自分でも野太くて、気持ちの悪い、情けない声だと思う。耳をふさげたらふさぎたい。口を閉じようとしてもうまく力が入らず声が駄々洩れになってしまう。
普通だったら聞いてて萎えるだろうと、陽人はどうしてか興奮していた。陽人はいつの間にかしゃがみ込んで手を動かしていた。腰に回した手の力はずっと力強かった。俺はされるがまま、初めての他人から与えられる感覚を必死に追っていく。いつの間にか俺の目には涙が浮かんでいた。
「なあ、…泣くなよ。…腰ガクガクじゃん。発情期の雌みたい」
「〜〜〜〜っ、絶対にっ、おかしいだろ、お前ッ」
陽人は余計な一言を言って俺を追い詰める。恥ずかしくて俺は思わず叫んだ。ホントにどうしてこうなっちゃったんだ?!
「だーから、おかしくねえって。俺たち幼馴染だから普通だって」
まるで俺の心の声が分かったみたいに陽人が愉しそうに言った。陽人の手は容赦なくその中でも追い詰めていく。初めての感覚を教えられた俺はろくな抵抗も出来ず情けない叫び声をあげて陥落した。
「それはぜってえ、ち、げえ、って、…う、ア、ア、ぁあああーーーッ」
「おお〜」
何でお前は感心したように言ってんだよ!
俺は精液を吐き出しながら思う。背中に駆け巡る快楽の波は、俺には刺激が強すぎた。何度も来る感覚に俺は気持ちよくて腰が震える。
俺は…はしたない男だ。陽人の手を拒めずに、恥ずかしい姿を人に見せてしまった。半ば茫然としていた俺に、また新たな刺激がやってきて腰をガクガクと震わせる。
「んぐ、ん…、んぅ…」
じゅるじゅると聞いてて恥ずかしくなる音が響き渡る。俺は目の前の光景が信じられなかった。俺は瀕死の獣のような呻き声を上げた。
「ウ゛〜〜〜〜?!」
―――ヨウの口の中で俺のが吸われてる!ありえない!!!
俺は必死にやめろと背中を叩いたが、全然やめてくれない。抵抗をすればするほどむしろさらに強く吸われた。
まるで俺の性器の中身が搾り取られるんじゃないか。そう思うほどの強い吸いつきに、俺は顔を歪ませる。あまりの気持ちよさに、意識が飛びかけた。ようやく陽人の口から離された瞬間、俺は膝を土につけていた。
「はぁ、はぁ…はぁ…」
放心状態で座り込んだ俺に、陽人もしゃがみ、綺麗な顔に俺の吐き出したものを張り付けさせ勝ち誇ったように笑った。
「すっげ〜な、お前のザーメン…吸っても吸っても出てきてさ………味も濃いし今まで恥ずかしがってオナニーしてこなかったんだろ? 俺がちゃんと教えてやったのに、今までやってこなかったんだな〜」
だったらまたやってやるよ、と愉しそうに笑う陽人に俺は我に返り「ふざけんなっ」とアッパーを繰り出した。油断していたのかそれは見事に決まり、陽人はその場に倒れこんだので俺は「やべえ!」と違う意味でその場で頭を抱えたのだった。