最近俺の幼馴染と先輩の様子がおかしいのだが

 


...09

「ぎゃああああああっ」

 野太い俺の声がリビングに木霊した。一気に身体がカーッと熱くなり、羞恥で頭がくらくらした。近づく陽人の顔を押しのけようとするが、震えて上手く出来ない。

 こんな事を言っては何だが、俺はこういう状態になったことがあまりない。朝勃?、というやつもあまりないので、海パン越しに反応している自分の息子に驚くしかない。興味がないとか言うと気取ってる、硬派ぶってる、なんて言われそうだが、オナニーなんて数えるぐらいしかしていない。

 オナニーなんて恥ずかしいことに陽人に教えてもらったぐらいだ。ちんちんが硬くなったと言ったら、擦ればよくね?と言われ、見よう見まねでやったぐらいだ。気持ちよかったが、自分ではなくなる気がしてそれ以来自分から進んでしようとはしなかった。

 人と付き合いもないし、母親と二人暮らしで、テレビもネットも見ない俺はそう言った知識を知らない。保健の教科書レベルでしか知らないので、先輩にあの雑誌を見せてもらっただけで恥ずかしくて死にそうだった。

「へー。結構デカいな」

「―――――?!!!!」

 ぺらっと海パンを引っ張られ、俺は言葉を失う。声にならない悲鳴を上げ、その場で倒れそうになった。

 ―――み、見られ…ッ!

 陽人とは子供の頃は一緒にお風呂に入っていたが、今は見せあいっこなんてしない。

「毛深いちんこ、めっちゃビクビクしてやべ〜…、俺に見られて感じちゃった? なあ、触っていい?」

 じろじろと俺の息子を見ながら陽人は鼻息荒く言っている。急に興奮した様子の陽人に、俺は脳内がはてなマークでいっぱいになる。

「は?!よ、ヨウ、な、なに言ってんだ?! マジでよくなんて言ってるか意味が分からないけど?!」

 陽人の言っている事は全然分からないが、陽人が今様子がおかしいのは分かる。このまま陽人に流されたら、自分は「やばい」ってことだけが俺でも分かる。

「だってさー、お前、はっきり言わないと分かってくれないんだもん、別にいいじゃんちんこ触るぐらい。減るもんじゃねえべ」

 勃起させちゃった原因は俺にあるし―――、そう真顔で言い切る陽人に度肝を抜かれる。

「え゛、えぇええっ」

 全然良くはないと思うけど?!

 俺が思わず叫ぶと、陽人は意地悪く笑う。

「こうなっちゃったし、これは偶然起きた事故だから気にすんなよ」

「き、気にするわ!」

 なんで笑って俺の息子に触ろうとするわけ――――?!

 俺はパニックになりつつ、オイルでぬるついた身体で陽人の手から逃れようとする。だが、陽人は俺より素早く何より力が強かった。ほぼ裸同然の俺たちはまるで寝技をしている状態になっていた。

「あ。ちっちゃくなった」

 攻防を続けていたらいつの間にか小さくなっていた俺のものを見て、陽人はため息を吐いた。そして舌打ちをされ、俺は意味が分からず身体を固まらせる。

「…幼馴染だし、別にいいと思わねえ? ダチで抜きあうとかあるし」

「…ぬき?あう?」

 聞き慣れない言葉に首を傾げると、目の前の男から今日一番のため息を貰った。

「…………はあ。マジでピュア。…アホくさ」

 ホント前途多難だなー、なんて言って陽人は立ち上がりまるで何もなかったように陽人はその場を離れた。

「…は?」

 ―――今のは何だったんだ?! 

 幼馴染だからいいとかそんな話聞いたことがない。友達が少ないからかもだけど、世間一般的にはどうなんだ?!

 俺は、混乱しつつ、妙にドキドキしている自分の変化に首を傾げながら理不尽ないなくなった幼馴染に「意味わかんねえ!」と思わず叫んでいた。

 

 ◇◇◇

 

 最近、やっぱりどこか陽人がおかしい。昔より距離感が近いと言うか。雰囲気が子供の頃と違うというか―――。

 俺はすっかり陽人の事で頭を抱えていた。子供の頃から一緒に居たが、ここまで絡んでくる事はなかった気がする。まさか自分の息子を見られて、陽人がさ、触ろうとするなんて―――。そこまで考えてから羞恥で顔をカッと赤くさせた。

 俺は馬鹿だから、陽人の考えている事がさっぱり分からない。「ちゅら」に来てからもう1週間経っていたが、陽人がよくこちらを見ている事に気づき、ドキッとする。あの休憩時間の連れ去りからの一件から陽人は俺を見つめる様になった。…心配させているのかもしれない。

 だからといって『もう心配しなくて平気だ』なんて自分からは言えそうにない。

 客もまばらになってきた夕方頃、ぼーっと「ちゅら」でカウンターに座っていたら近くから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「よォ、有人。元気にしてたか」

「…ショウゴ先輩!?」

 高身長のガタイのいい赤い髪の美青年。俺の目の前に現れたのは白いパーカー姿に海パン姿のショウゴ先輩だった。赤い髪が夕日と溶け合っていて綺麗なショウゴ先輩をまじまじと見つつ、久しぶりに会った敬愛する人の登場にテンションが上がる。

「俺っちもいるよ〜」

 ひょいっとショウゴ先輩の背中から顔を出したのは、シゲ先輩だった。俺はさらに知った顔ぶれが出てきて思わずカウンター席から立ち上がる。

「うおっシゲさんまでっ?!」

「うひひ、めっちゃびっくりしてんじゃん」

 糸目を愉しそうにさらに細めたシゲ先輩。俺は顔を緩まずにはいられなかった。

「なんで来てんですか?! 言ってくださいよっ」

「ん〜、後輩がバイト頑張ってる姿見に来ただけだ」

「あと海! 水着美女! スイカ割り!ビーチバレー!!」

 がははっ、と豪快に笑うショウゴ先輩に、シゲ先輩がかぶせる。俺はそんな2人に、周りを見渡して口を開ける。

「でも…もう今、夕方ですよ」

「ああ、もっと早く来たかったけど俺がめっちゃ寝坊したんだよな」

 辺りはもうオレンジ色の夕日に包まれている。海岸に来ている人もまばらで、女性が居たとしても楽しそうに連れ添う男性が隣にいたりしていた。寝坊して遅れてもあまり悪びれていないところが、ショウゴ先輩らしいなと思う。

 そんなことを考えていたら、ショウゴ先輩は下から上まで俺をじっと見て、肩を組んできた。突然のことにドキッとする。ショウゴ先輩も陽人と同じようにこういうことをするので、ビビりな俺は心臓が痛くなる。

「てか日焼けすげーな、いい身体してるしさぞモテモテだっただろ?」

 ニヤニヤと笑いながら俺の身体一瞥し、そう言われて目の前の腹筋が目に入る。俺よりも全然筋肉質で、男らしい身体をしている先輩の方が絶対にモテるだろう。

「いや〜、そんな事言っても」

 先輩の方がカッコイイし、モテますよ―――俺が先輩の事を言おうと思った瞬間、突然来訪者が現れた。

「――――先輩」

「お、ヨウっちじゃーん」

 やっほ〜、とシゲ先輩に手を振られ陽人は小さく会釈をした。突然現れた陽人に「うおっ」と声を上げて驚いていると、ショウゴ先輩も声をかける。

「へー、頑張って働いているみたいだな」

「ええ、まあ…。先輩も来てくれたんですね」

 先輩に対してぶっきら棒に言っている陽人に、ムッとするが、ここで怒鳴るわけにはいかない。

「いやーだって、めったに水着見れる機会とかないわけじゃん」

 なあ?と、俺を見て言われて、俺はとまどいながら頷く。頭が追い付いていないが、ここではきっと頷くのが正解なのだろう。息のかかる距離にカッコいい先輩の顔があって、少しドキドキした。陽人は無表情ではあるがむすっとした顔で俺たちを見ていた。何サボってんだよ、と言われているみたいだ。

 ―――そんなこと、女子をナンパしまくってるお前にだけは言われたくないけどな!

 ムカついて俺はこっそりと心の中で悪態を吐いた。

 ショウゴ先輩はまるで果たし状を受け取った時のような真剣な顔で俺と陽人を交互に見た。

「…でさ、相談なんだけど」

 真剣に言ったショウゴ先輩の言葉は「どこもホテルも埋まってて泊まる場所ないからここで寝泊まりいい?」というもので俺と陽人は思わず「えええええっ」と叫んでしまったのだった。

 

 

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