ンドルフィンと隠し事

23

 

「おい、急に何だね?!」

 男がぎょっとした顔で、クミヤを見つめる。それに対し、クミヤは冷静に男を見ていた。クミヤは男に何かを耳打ちする。それは好紀には聞こえないものだったが、その言葉を聞いた途端男の顔はみるみると顔面蒼白になっていった。

「―――…」

 男はクミヤのその言葉に押し黙ってしまう。そうして、クミヤに好紀は腕を引っ張られて会場を後にしたのだった。好紀は、その姿がまるでヒーローに見えて仕方がなかった。

 

 

 クミヤに連れてこられたのは、同ビルの一室だった。ここは普段だったら男娼が客をとるときの一室だった。好紀は、キングサイズのベットに身体を投げ出される。身体が熱い。股間までも熱くなりもじもじと身体を丸めさせると、無理やり顔を上げさせられる。

「ほいほい薬飲むなんて馬鹿か」

「?!」

 バッサリと言われて、好紀は面を食らう。クミヤは本当に初めて会った時より話すようになった。どうしてナンバー2であるクミヤがここにいるのか、どうしてあの場面で好紀を助けてくれたのか、聞きたいことはたくさんあった。だが、そんなことを聞ける雰囲気ではなかった。

 驚く好紀に、ため息交じりにクミヤは冷たく言い放つ。

「…分かってなかったのか? お前は、媚薬飲まされたんだ」

 媚薬――――。

 そんなこと知るはずがない。まさか、あの飲み物の中に―――?男に飲まされたモノを思い出し、身体を震わせる。ぶるぶると首を振った。身体を無理やり起こし、クミヤを見つめると彼は大きくため息を吐いた。こんなに馬鹿なヤツは久しぶりだと言いたげのため息に顔を赤らめる。

「取り敢えずズボンを脱げ」

 ぎし…と、ベットが大きく鳴る。しばらくしてから、やっとクミヤの言いたいことが分かった。なぜ、とか、嫌だ、とか、言う権利は今の好紀にはなかった。好紀は熱い身体を持て余しながら、ゆっくりとズボンを脱いだ。クミヤには、もう前に全裸を見せているのだ。恥ずかしがることはないと自分に言い聞かせる。

 脱いでから、クミヤの視線が『下着も脱げ』と言っているのが分かる。好紀はゆっくりと、すっかり勃起した股間を覆い隠しながら下着を脱ぎ捨てた。上は着ているのに、下半身は裸という状況に眩暈がしてくる。羞恥心に震えていると、クミヤがさらに声をかけた。

「隠すな」

「っ」

 股間を隠していることを指摘され、背中に汗が流れ落ちる。好紀は熱いものを吐き出しながら、ゆっくりと足を拡げ股を開いた。反り返った性器がへそにくっついていることが分かり、目をぎゅっと瞑る。媚薬を飲まされている、そう考えても恥ずかしい状況だった。目を閉じている好紀に、衝撃が走る。

 クミヤに尻を抱え上げられ、そのまま太腿と腕を密着させ黒い拘束棒で拘束されてしまったのだ。どこにあったのか、そう問いかけたくなる。一気に大股を開けて拘束されるという卑猥な恰好に、好紀はパニックになって何とか逃れようと身体を揺らすがビクともしない。ただギシギシとベットがスプリングするだけだった。

「お。俺、逃げないっすから、この格好は嫌っすっ」

 悲鳴のように懇願するが、クミヤは好紀を一瞥しただけでこの拘束を解こうとはしなかった。

 どうやらクミヤは好紀が逃げると思っているようだった。

 ずっと後ろを向いて何かをしているクミヤに好紀は必死に訴える。

「クミヤさん、な、何するんすか?」

「……」

 クミヤは無言だった。そして振り向いたクミヤは紙袋を持ってベットにのぼる。その顔は無表情で何を考えているのか一切わからないもので、背筋が凍る。手も足も動かせず、好紀は怯えた顔でクミヤを見つめる。クミヤはじっと好紀の身体―――下半身を見詰めた。

 身体がさらに熱くほてり、勃起した性器からはトロトロとした愛液が流れ落ちる。好紀は一気に恥ずかしくなり首をぶんぶんと振って否定した。

「こ、これは…っ、あの、違くて…!」

「このまま放置してもイきそうだな」

 クミヤの直接的な言葉に、頭がカァーッと熱くなる。

「そ、それは…、無理…なのでは…ないかと」

「じゃあ、触ってほしいか?」

「っ」

 彼の試す言葉に、好紀は言葉を失う。下半身を裸にされ、拘束されたこの状況下で、その先を期待しないはずもない。それを知っているのか知らないのか、クミヤにそう言われてしまい好紀は頭の中でパニックに陥った。ここで求めたら、自分が酷く浅ましい人間であることを教えてしまうような気がした。まるで、ディメントに来る客と同じような、欲望に忠実な、怪物と同じ存在になってしまうのではないか―――、好紀はそう考えたら怖くなって震えがやってきた。

 溢れ出る涙を、止めるすべがなかった好紀の瞼には大量の涙が溢れる。その反応が予想外だったのだろう。流石のクミヤも目を見開いて驚いていた。それも、一瞬の事で、泣いている好紀には分かるはずもないことだったが―――。

 すすり泣きながら、好紀は訴える。

「ひみつ…ひみつにして…。触ってほしいなんて、思ったこと、秘密にして欲しい…」

「…そんなこと、誰に言うんだ」

「…あぁ、そっか」

 好紀はその言葉に安心して安堵の声をあげた。確かに、クミヤがそんな事を言って得をするはずもない。好紀がふにゃりと笑うと、クミヤは目を細める。そして、そのまま紙袋の中に手を突っ込んだ。それから彼は、クミヤがどうして拘束したのか分かることをしてきた。

 紙袋から取り出したのは、ローションと所謂大人の玩具といわれるようなものだった。

「あ、あの…っ」

 無言で準備するクミヤに好紀は叫ぶ。その道具たちを見ると、まるであの講習会のようで恐ろしくなった。あまり思い出したくない記憶がフラッシュバックし、身体が緊張と恐怖で震えてきた。好紀は逃げようと身体をよじるが、先程と同様身動き出来ない。

 好紀が震えているうちに、手早くクミヤはローションを球が連なっている黒色の道具に付け、好紀に見せつける。好紀も初心ではないから、それがどこに入るのか分かり、その場所を意識してしまう。好紀はその玩具を凝視し、震えながら言った。

「そんな大きいのは入らないっすよっ」

 好紀の言葉に、クミヤは鼻で笑う。

「講習会でこれより大きいのを入れていただろ」

「っ〜〜〜〜〜〜〜うぐっ」

 言葉を失ったその刹那だった。グッと、その玩具を壺まりに押し込められ、その圧迫感に好紀は呻く。ぬらついた球が、小さな孔をこじ開け中に入ろうとしてくる。好紀は首を大きく振り、なんとか侵入を防ごうとする。だがそんなことは出来るはずもなかった。

 ぬぷぷっ。と、粘着質な音を響かせそれは侵入してきた。

「はぁ、はぁ、はぁ…っ」

 大きく息を吐く。キッとクミヤを睨みつけるが、彼はそんな視線どこ吹く風だった。勃起した性器はビクビクと震え、ぬらついた糸が引いている。

「や、やめて…っ」

 好紀の静止を聞かずに、クミヤはさらに奥へと進める。大きく音を立てながら球は侵入し、やがてそれは全部入ってきてしまった。好紀の腹は膨れており、触れば球の存在が分かってしまうだろう。好紀は圧迫感で自然と目に涙が浮かんでいた。

 クミヤは出ている輪っかを軽く引っ張ったり、盛り上がっている孔に指を這わせた。それは酷く羞恥を煽る行為だった。

「たすけて…ゆ、許して…ください…」

 好紀は涙ながらに訴える。土下座して許されるのだったら土下座をしてもよかった。

「―――イきたいか?」

 ハッキリという彼の言葉に、好紀は言葉を失ってしまう。それもそうだが、それを認めてしまうと、好紀の中の何かが壊れてしまうような気がした。尻穴にモノをいれられたのに勃起したままの性器が、自分がもう普通の男性ではないということを知らしめている気がしてならなかった。

「ちゃんと言わないとこのまま放置だが、それでいいのか?」

「っ」

 好紀の顔は一気に顔面蒼白になった。絶望的な顔をする好紀に、クミヤは目を細めただこちらを見ている。それはまるで神の審判のような眼差しだった。好紀が怪物か判断する神様に見えた。好紀は神様に軽蔑されるのが怖かった。

「や…やだ…ごめんなさい…。許してください…、」

 泣きながら好紀はぷるぷると身体を震わせる。媚薬に犯された身体はもう我慢の限界だった。好紀は自身のぱんぱんに膨張した性器にも、自分自身にも絶望していた。クミヤは好紀に「イかせてください」と言わせたいと言う事は明白だった。性というものを嫌悪している好紀に、その言葉がどれだけ重いか分かっていての問いかけだった。

 まるで性の欲望を嫌悪するのはやめろ、と言われているようだった。

「媚薬を飲まされてこんなに勃起してるんだ。これ以上は身体に毒だろう」

 そう、クミヤは好紀に諭す。まさかクミヤがそんな事を言うなんて思わなかった。まるで好紀の身体を労わるような事を言うなんて。

 身体に毒…。そんなことは分かっている。今自分の置かれている立場が、目の前の人物に「イかせてください」と懇願するしかない矮小な存在と言う事は分かっている。だけど、そんなことを、願ってしまったら。一度だって、声に出してしまったら。

「お願いします…たすけて…」

「……―――」

「―――――――――――っあぁっ」

 涙ながらに懇願した後、一瞬の間があり、彼の手が性器に触れた。そのまま扱かれ、身体が痙攣し、甘い快楽が身体に弾ける。気持ちいい―――。声が上ずり、いつもより甘い声が漏れる。何度か扱かれた後、限界だったペニスから勢いよく精が飛び出た。

「あ、ぁっ、あぁっ」

 断続的に与えられる快楽に、声が漏れる。背中を逸らし、射精感に耐える。白濁はクミヤの大きな手を汚していた。

 好紀は、結局、「イかせて欲しい」とは言えなかった。おねがいします、と言っただけだった。だが、クミヤはそれで許してくれた。一度射精したのに関わらず、さらに性器は硬直し硬度を保っている。萎える様子もなく、媚薬の効果が出ていた。

「どうして欲しい?」

「っ」

 亀頭を指先で弄られながら耳元で囁かれ、好紀は固まる。身体はその先を求めてヒクついていた。道具を入れられた場所が収縮しているのが分かり、好紀はただただクミヤを見つめることしかできない。クミヤはそんな好紀をじっと見詰めた後、やがてゆっくりと腕をスクロールし始めた。

「あっ、あっ…」

 気持ちいい。声にそんな感情が乗っていることが分かる。

 それから、クミヤは何度も好紀に快楽を与えた。何度もどうして欲しいか問いかけ、答えることが出来ない好紀をみながら性器を扱いたのだ。尻の玩具も球のものから、棒状のものまで様々なものを突っ込まれた。性器と一緒に扱かれるとたまらなかった。

 その行為は好紀の媚薬が抜け切るまでされ、何度もイかされ続けた好紀はそのまま気絶するように眠りに落ちた。

「お…とうさん…」

 ふいに漏れた言葉。それは父を呼ぶ声だった。頭を撫でられた感覚がした好紀はすっかり安心し、そのまま意識を飛ばしたのだった。

 

 

inserted by FC2 system