ンドルフィンと隠し事

21

 

「違うでしょう! そこはガニ股でフェラするところでしょうっ!!」

 どうしてこんなことになってしまったのだろう――――…。

 好紀は何度も考えた言葉が頭の中で響き渡る。好紀は、罵声を受けながら耳を閉じたくなるのを必死に耐えていた。罵声の相手―――タイの言う通り、好紀は全裸のままガニ股をして客のものを口に入れた。独特の苦味、酸味がやってきて顔をしかめる。

「そうそう…すっごい卑猥な恰好だよね…自分の恰好想像してみてよ? 裸でガニ股だよ。下品で全部丸見えでやらっし〜」

「ん、ふっぅ」

 タイに興奮気味に言われて羞恥で顔を赤らめる。自分の恰好をちらりと見て羞恥で頭が煮えたぎそうになった。タイは興奮気味に口を動かす。

「そのまま手でちんこを掴んで…」

「は、はい…」

 好紀はおずおずと客のモノに手を伸ばす。

「おっ、おっおおう…」

 手で客のモノを掴むとその感触の生々しさに吐き気がした。客が感嘆のため息を吐く。好紀の恰好は恥ずかしさの固まりだった。全裸なのも恥ずかしいが、足はガニ股に開いており、あまつさえ両手には男性器が握られている。その恰好は見る者を魅了するものだった。

 3つの男性器に好紀はたじろぐ。両手は塞がれ、男性器に身体は包囲されている。いつの間にか脱いでいたタイの性器は大きいものだった。

 どうして大きくなっている?と疑問が浮かぶ前にタイの声が耳朶に響いた。

「ほら手を動かして…」

「は、はい…」

 タイに急かされて、好紀はおずおずと手を動かした。瞬間、男たちが呻く。

 この男性器の、妙な感触には、いつまで経っても慣れない。タイのを掴み、男性客のを掴み、もう一つの性器が宙ぶらりんになっている。残された手段は一つしかない。好紀はごくりと唾を飲み込み、口を大きく開けた。そして舌を出す。

 すると客は、無遠慮に性器を口へ突っ込んでくる。

「おっ」

 好紀はおえ、と呻くのを堪えた。鼻の中に匂いが充満する。性器の形容できないあの匂いが鼻腔をくすぐる。口の中に入っているモノを吐き出したくなるのを何とか堪え、何とか舌と手を必死に動かす。自分がどんな状態であるか考えたくなかった。考えるだけで頭がおかしくなりそうだった。

 好紀はもう無我夢中だった。手を動かすたびに呻く獣たちが気持ち悪くて仕方がない。

 息が続かない。ガニ股のまま手を動かすのも辛い。

「う、うぅっ」

「は、はぁ、出る、出る…っ」

「出る…っ」

「イく、イく…っ」

 男たちはそれぞれおのおのタイミングで果てようとしていた。だが、殆ど一緒とはどういうことだろうか。好紀は内心一人悪態つきながら必死に手と口の中の舌を動かした。だが、その時だった――――。

 ドプ、ドプ…っ、ビュルビュル…!

 音を立てて、男たちが呻き、背中を逸らしながら精子を吐き出す。白濁が好紀の身体のいたるところに飛び散った。

「う、うううっ」

 好紀が呻いたのは目に入ったからだ。顔を擦ると、大量の精がべったりとついている。その絵面を想像してゾッとする。―――…一刻も早く顔を洗いたい、そう思った時だった。

「なんだ急に!」

「どうしてあんたたちがこんな場所に居るんだよっ」

「どういう組み合わせなんだこれは…」

 急に周りが騒ぎ出した。

 何が起こっているのかわからず、目を擦って確認しようとしたら腕を掴まれた。

「行くぞ」

 この低いぶっきらぼうな声は―――。そう思った刹那、見知った声が聞こえてきた。

「コウ! 大丈夫か?!」

「……イチ?」

 何でイチがこんなところに―――…。

 やっと目を開けると目の前に心配した様子のイチと、なんと手を掴んでいるクミヤが居た。どういう組み合わせなのかも分からないし、どうして今彼らがここにいるのも分からない。分からない事づくめだった。混乱している好紀を置いて、場面は勝手に進んでいく。

「服を着て早くここから出るぞ」

 クミヤがそういうと、タイが吠える。

「ちょっとどういうことなんですかね。今、超いいところなんですけどっ! どういう関係性か分からないんですけど、今『仕事中』なんです」

「ホントだよ、急になんなんだ。ナンバー持ちのイチとクミヤが来るなんて聞いてないぞ」

 タイに負けじと客も叫ぶ。

「あ、この2人も加わるってことなのですかね?」

「―――そんなわけがない。そもそもこの乱交パーティは無効だ」

 いつもは静かな彼が饒舌に語っている。客の問いかけに対してクミヤはばっさりと言い切った。好紀は二重の意味で驚いていた。

「はぁ?どういうこと?」

 タイが眉を顰めて問う。それに対してクミヤは冷静に―――冷徹に見える表情で言った。

「まず、こういう乱交をするときは小向に許可を取るんだ。――――お前、ちゃんと取ってないだろ」

「――――っ、とってないけど…っ」

 タイの顔がたじろぐ。初耳だ、とこそっと言った。好紀も初耳の言葉だった。そうだったのか―――。そんな彼に畳みかけるようにイチが言った。

「だから、このパーティは無しです。無効にしないとこのことを小向様に報告します。…いいんですか?」

「――――」

 よくない、とタイの顔に書いてあった。主催者であるタイの説得は上手くいったようだが、まだ残っている客は憤慨していた。

「それはディメント側の都合だろ、俺たちはどうなるんだよっ、せっかくの乱交パーティで愉しみにしていたのに…っ」

「そうだそうだ。納得できない!」

「もっと納得できる内容を出してくれないとこちらとしても承諾できないな」

 3人とも顔にこのままフェラと手こきだけで終われない、と書いてあった。客としてはお金も払っているのでもっともな言い分だった。何て言うんだろう、そう考えていた時、クミヤの表情が変わる。恐ろしい程の笑顔に変わったのだ。綺麗すぎると恐ろしいとはよく言ったものだ。

 にっこりとした笑顔のまま、王者のオーラを漂わせて彼は口をゆっくりと動かした。

「申し訳ございません、お客様。この度はこちらの不手際で乱交パーティを無効とさせていただきまして…。お詫びと言っては何ですが、こちら、次回に使えるクーポンとなります。また、お三方はまだVIPにグレードがないようなのでランクを一つ上げさせていただきます」

「――――っ」

 ランクを上げます、といった瞬間3人の顔つきが変わった。

 ディメントには会員のグレードがある。3人は、下位のメンバーであるコウを頼むぐらいなので、そこまでランクが高くないのだろう。それを知っていてクミヤはそう言って見せたのだ。それは3人からしたら下位のメンバーの乱交パーティなんて屁なんて思うほど―――喉から手が出るぐらい欲しいグレードだった。

 それだけのことをクミヤが出来るのが、急に好紀は恐ろしくなってしまった。

「いかがでしょうか?」

 にっこりと笑ってクミヤが問いかけると、3人は目配せをした。その手にはしっかりと渡されたクーポン券を持っている。

「…まぁ、それなら」

「いいだろう」

「むしろお得…ゴホン…」

 こうして、あっという間にクミヤは客までも納得させてしまった。まるでヒーローみたいだなぁ―――。颯爽と現れて、こういうことをしちゃう。

 好紀が驚きと共にぼんやりしていると、顔にチノパンが投げつけられる。

「ぶっ」

 感動していた好紀にとっては、冷水をかけられたみたいだった。

「おい、早くこんなところから出て行くぞ。服を着ろ」

 と、ぶっきらぼうにクミヤが、

「そうだよ。顔も洗ってここから出よう、寮に戻ろう!」

 と、イチまでにも言われて好紀は慌てて顔を拭い、身体をシーツで拭きながら服を着る。チノパンとTシャツを着て、鞄を持っていそいそと用意していると後ろから声がかかる。

「コウくん、また同伴呼ぶからねぇ」

 次は覚悟してね、と言われた気がしてゾッとした。好紀は「はい」と返事をして部屋を出ていこうとしているイチとクミヤの背中を追いかける。部屋を出て、ホテルから出るといつものクミヤの車が待っていた。今まで待っていたかと思うと運転手さんに申し訳ないと思ってしまう。

 車に乗り込んだ2人に倣い、好紀も車に乗り込み、シートベルトをしめると車は発進した。

 一気に疲れが出て、ため息を吐き、助手席に座ったイチ、隣の後部座席にいるクミヤを見つつ好紀は頭を下げた。

「ありがとうございました!」

「ホントだよ、あのままだったら絶対ヤられていたんだからねっ」

「………だから言っただろ、何をされるか分かってるのかって」

 好紀に二人の罵声が飛ぶ。

 好紀は「ごめんなさい」と言いながら、助けてくれた二人に感謝の気持ちが溢れていたのだった。

 

 

 

 

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