RIP IT UP

第7話

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 白い空間に呻く自分はどれほど醜いものなのだろう。義孝は熱くなって、上手く思考ができない頭で考える。

 透の手によって翻弄されて野太い声を響かせる自分自身が恥ずかしかった。脳内にもう会うこともない人々が義孝の今の姿を見て嘲り笑っている様子が浮かぶ。義孝はふぅ、ふぅ、と荒い猛獣の息を吐き出し声を噛み殺しながら忌々しい思い出の彼らを睨む。

 俺はこんなんじゃねぇ。こんなんじゃねぇんだよ―――。

 義孝が睨む視線を感じた透が柔い刺激を与えながらこちらを見る。義孝の眼光の鋭い睨みに少しだけ固まったが、すぐにそれを別の表情に変えた。透は綺麗な笑みを顔に浮かべると、愉しそうに話す。

「恥ずかしがってる義孝さん可愛い」

「はっ?」

 義孝は思わぬ言葉に驚き言葉を失った。反論しようと口を開けた瞬間、透の長い指が義孝の反応している部分を撫でた。

「う゛ぅっ」

 眉間にしわを寄せ、苦悶の顔をしたのは苦しさからだった。芯を持った義孝の性器はズボンのなかでは窮屈でキツかった。ギュッと締め付けられる感覚に額に汗が流れる。

「あぁ、義孝さんの声もっと聞きたいです」

「ウッ…」

 熱い声で言われた言葉を反芻する前に、義孝はくぐもった声を上げる。形が浮き出るほど反応した場所に指で優しく撫でられ、ビクビクと腰が跳ねる。焦らされている、そうは感じても文句を言ったら先を欲しているみたいで義孝は口にできない。

 だから義孝はふぅ、ふぅと自分の声を押し殺し透に対し睨むことしか出来ることは残されていないのだ。

「こんな野太い野郎の声聞きたくないだろ…」

 義孝が今の状況に何も出来ないでいることに歯がゆく、悪態をつくと、透は不思議そうな顔をする。

「どうしてですか? こんなに気持ちいいのを我慢していやらしい声出してる義孝さんがいいんじゃないですか。…もっと僕は義孝さんの全部が知りたいから」

「っ」

 はぁっ―――と熱い息を股間にかけられ息を呑む。

 ―――ああ、嫌だ。こんな刺激で感じてしまう自分も、目の前の何故か自分に執着するお医者様も。

「…イヤだ」

 義孝は思わず声に出してしまっていた。透は義孝の言葉に顔を上げ、不思議そうな顔をする。

「理不尽だ。俺ばっかりあんたに知られて。―――…俺はあんたの過去とか知らないのに…、あんたのこと何にも知らないのに俺ばっか…俺ばっかり…伊勢さんに全部知られて。これ以上俺のこと暴かないでくれよ…っ」

 いつの間にか叫んでいた。

 義孝の心からの訴えは白すぎる部屋に響き渡り、2人の鼓膜を震わせた。義孝の顔はくしゃくしゃになっていた。歪んだ顔は、ふとしてしまえば泣いてしまいそうだった。心が、胸が、心臓が痛かった。苦しくて、誰かにしがみつきたかった。

 どうしてこんなことを言っているのか、自分でも分からない。義孝は息を乱して、透を見る。―――その表情はまるで。

「……うれしい」

 透の声はか細くて、聞き逃してしまう所だった。義孝がその言葉を探す前に、身体に温もりが包み込む。いつの間にか義孝は透に抱きしめられていた。不安定な脚はベットの上に放り投げられ、その衝撃をゆっくりと感じていた。

「…義孝さん、僕のことそんなに興味持ってくれたんですね」

「え?」

 目をぱちくりさせる義孝に、透は蕩けるような極上の笑みをした。

「ずっと待ってました。義孝さんが僕のこと、気になってしょうがないってなる瞬間を」

「〜〜〜〜〜?!」

 義孝はその言葉で声にならない悲鳴をあげる。 

 気づきたくもないことに気づいてしまう。先程の言葉はまるで透のことをまるで知らないことに拗ねた言葉ではないのかと。そんな女々しくて、乙女のようなことを切羽詰まって言ってしまった事実に今すぐにでも隠居をしたいと顔が青くなる。

「お、おおおおれはべっべ、べつに」

 明らかに動揺して声が裏返っている義孝に、透は心底幸せそうに話す。

「嫌よ嫌よも好きのうち…ですか?」

「ば、ばかか、んなわけ…んぐっ」

 透の言葉に真っ赤になり熱くなる身体を透はぎゅうっと力強く抱きしめる。キツく抱きしめられると、義孝は文句も言えない。ガタイのいい義孝より少し大きい身体に包まれるはとても不思議だった。ドクンドクンと、透の心臓が傍にあった。この熱はどちらのものなのだろう。この白すぎて怖い空間が、少し桃色のような雰囲気になってきていることを義孝は知らない。

「義孝さん……僕のこと、知りたいですか?」

 それは甘い罠だった。耳元に囁かれるその言葉は、義孝の思考を融解させる。身体から伝わる熱が、体温が、焦らされた刺激が――――全部、義孝のカチコチに固まった心を溶かしていく。

 本当にこの人は馬鹿だと思う。

 俺は男だし、過去は人に話せるものではないし、冴えないリーマンだし、これと言って誇れるものもない。もっとこの人にはお似合いのいい人がいるだろう。…―――この人は変態だけど。

 でも、この人は義孝に言ってくれたのだ。好きだと。

 きっと一生こんな優良物件ないんだよ、俺には―――。

 ―――そうやって正当化する自分がいる。認めれば、全部この変なイラつきも、この焦らされた熱も解放される。

「………」

 こうやって、この人のことを知らない自分にイラついたりすることもなくなる。

「黙ってるってことは、僕の全部が知りたいんですよね?」

「っ」

 そんなことない、そう言おうとして口籠る。ああ、俺の馬鹿野郎。ここではっきり言わないから、付け込まれるんだ。昔からそうだった。言いたいことが言えずに、ズルズルといいように扱われて。遊ばれて、傷ついて。

 もう、あんなことにはなりたくない。

 だから、俺は。

 お前とは違うから変わるよ。月村―――。

「……ぁ、あぁ…」

 義孝は、自分の顔がみるみると赤くなるのを感じていた。頷き、言ったのは自分なのだが、恥ずかしいなコレ?!

 ―――義孝は、大の男が恥ずかしがって気持ち悪いな!と今にも穴があったのならば入りたい気持ちになる。

 瞬間、身体から圧迫感が消えた。開放され瞬きを繰り返す。

「…―――義孝さん」

 熱い声が耳朶を打つ。

 義孝が顔を上げた時だった。

「っウ―――グっ…」

 綺麗な顔が間近にある、と思った瞬間の出来事だった。唇を喰われる、そう思うほどのキスをされた。4枚の口の花が零れ、ぐずぐずに蕩けていく。突然息を塞がれ上手く呼吸が出来ない義孝は目をぎゅっと瞑った。だがそうすると余計に感覚がリアルに感じられた。

 くちゅくちゅと音が聞こえる程、口の中を長い舌で蹂躙される。義孝が身体をよじりなんとか逃げようとしても肩を掴まれてしまえば、義孝は動けない。キスは初めてではなかった。だがこういった重なり合いは初めてで義孝は敏感に反応してしまう。腰が震え、脳内の快楽物質を刺激され、身体の芯から熱くなる。

 頭が真っ白になり義孝はいつの間にか身体を反らし、そのまま精を吐き出してしまった。

「ぅ…う、んぐ、ん、ッ!」

 全身を震わせその絶頂の余韻を味わい尽くす。こんなことは初めてだった。キスがこんなに気持ちいいということを知らなかった。そしてそれだけで焦らされていたとはいえ――達してしまった自分が恥ずかしい。

 透の口づけは荒々しく、性急で。義孝はやっと離れた口に大量の酸素を求めて荒く呼吸を繰り返す。

「義孝さん、ズルいです」

 透の熱っぽい声をまだ正常な判断ができない義孝の脳は何を言っているのかよくわからなかった。

「そんなこと言ってると、どうにかしちゃいます…」

 はぁ…っと、熱い息を吐いて囁く透の声にドキリとした。身体が先程の快感を知りたくて疼いているのが分かる。だけどそんなことを義孝は認めたくなくて毒を吐く。

「んなバカなこと考えるのはアンタぐらいだよ…」

 義孝の言葉に、透は小さく笑った。それはとても妖しい笑みだった。

「義孝さんのいいところを知ってるのは僕だけでいいんです。それより…」

 そんなに気持ちよかったですか?―――意地悪く透が声を潜めた。透の下を見た視線に義孝は一気に羞恥が湧きあがる。思い切り力の抜けた手で透を押し返す。だが透はそれを赤子の手をひねるように軽くいなし、クスクスと笑っている。それはもう愉しそうに。

「嬉しいなぁ…。義孝さんが僕のキスだけでイッちゃうなんて」

「う、うるせぇよ…っ、もとはと言えばアンタが――…」

 指摘された恥ずかしさで思わず声を荒げると耐えきれない刺激がやってきて義孝は言葉を失う。透が精を吐き出したばかりの部分をズボンの上から握ったからだった。義孝の首は思わぬ刺激でひくついた。ゾワッとした震えが襲い、義孝は透を睨んだ。

 透は相変わらず変態的紳士顔を見せて口を綻ばせている。

「もうここグチャグチャで気持ち悪いでしょう? 後で洗濯しますから脱いだ方がいいですよ」

「なんかアンタちょっと調子乗っていないか」

 直接的な物言いに義孝は突っ込んでしまう。確かに今その場所はグチャグチャと湿っていて気持ち悪い。だからと言って、ここで脱ぐのは嫌だ。

「でも、触ると分かりますよ。湿ってて、擦るとグチュグチュ…って…」

「ヒッ」

 義孝は透からの刺激に身体を震わせる。透が揉むように擦ると粘着質な音が聴こえてくる。義孝はその甘い拷問のような快楽に首を振る。なんでこんな恥ずかしいことをこの人は簡単に言うんだろう。

「ほら、もっと擦ってもいいんですよ。ズボンがもっとグチュグチュよりいやらしい音が聴こえるまで」

「っぅ、ひっ、や、やめっっぅう!」

 スピードを上げ揺さぶられ、義孝は耐えきれず嬌声を上げた。自分自身で聞いていてとても情けない声だった。透は淡々と優しく言いながら、義孝を快楽の渦に放り投げる。

「いやらしいなぁ、ああ…僕の好きな人がこんなにエッチな人だって知らなかった…」

 興奮した声で義孝の股間を荒々しく揺らす透に、義孝はかぶりを振る。ズボンの上から擦られるのはとてももどかしくて、ズボンが汗でびっしょりと濡れ、先走りの液で濡れている下着から粘着質な音が聞こえるのは苦しかった。

「もうすごく濡れてますよ。僕が脱がして楽にしてあげることもできますから、そうしたくなったら言ってくださいね」

「〜〜〜〜〜ッ」

 ―――この変態野郎!

 義孝にそう言える状況だったらそう言って殴っていただろう。透の淡々とした優しい声に含まれたいやらしさに地団駄を踏みたくなる。先程までのいじらしさはなくなり、透の行動には欲望が含まれていることに義孝が気づかないわけがなかった。

 透の正体はきっと今の、義孝にもどかしい快楽を与え続けるいやらしい変態だ。透は義孝がいやらしくねだるのを待っているのだ。義孝は腰が無意識に揺れ、先を求めているのを知っていてズボンの上で股間を揺らすという甘い拷問を続けているのだ。

 義孝が強面の顔をさらに顰め、声を噛み締め快感に耐えていることを透は知っていて言った。

「もっと激しい方がいいですか? 知らなかった。義孝さんが下着を脱がずザーメンを吐き出すのが趣味な人だったなんて」

「ひっぅ、や、やめ! あ、ぁ、っぅ、ぅんぐ〜っぅッ」

「我慢しないでいいんですよ。もっと、もっと、乱れてください。僕の中で何度もイくあなたは美しいですからね」

「ひ、ひど、いぅ! な、なんて意地の悪い…っぅぅううううぅ〜」

 諭すように言いつつ揺さぶり続ける透に義孝は限界寸前だった。

 いっそのこと泣いて叫んでしまいたかった。もうイかせてくれ、と。

「どうしてそう思うんですか? 僕はあなたの言う通りにしますよ? もっと弄ってあげましょうか? それとも、下着をずらして直接触ってイきまくっちゃいますか? お尻をほじってそのままイきますか? ほら、いってください。…あぁ、そうだ。止めることもできますよ」

 義孝は透の淡々とした言葉責めの数々に泣きそうになった。透の言葉に敏感に反応してしまう自分が惨めに感じ、嫌だった。

 ―――もう、やめてくれ。俺が悪かった。アンタのこと知りたいとか言ったのが悪かった。許してくれよ。

 義孝は自分のプライドがボロボロになるのを静かに受け止めながら、小さい声で「ズボンを脱ぎたい」と願望を話す。それは透が求めていた言葉だった。透は紳士的に「貴方の言うことは何でも聞くといったでしょう?」と囁くと、義孝にサディスティックな笑みを浮かべた。

 義孝は死刑宣告を受けたような心持ちになって、濡れたズボンが自分に見せつけるようにゆっくりと脱がされていくのを見つめたのだった。

 

 

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