最近俺の幼馴染と先輩の様子がおかしいのだが

高校2年生である国崎有人(くにさき ありと)には美形であるが喧嘩が強い幼馴染である桐嶋陽人(きりしま ようと)が居た。

二人は毎日言い合いながらも同じ喧嘩グループで兄弟同然に過ごしてきたのだが、最近陽人の妙に距離が近かったり、可愛いと言ってきたりなんだかおかしい。

そんな時、二人の先輩である篭山ショウゴ(かごやま しゅうご)が、有人にタイマンをしようと持ちかけてくる。何故かそれに陽人も加わることになり…?!ってそれってもうタイマンじゃなくね?!

喧嘩が強い一言多めのモテ男(非童貞)×正統派美形だが不愛想な非モテ(ピュア) 

この作品は1人称の作品です。


...01

 

 砂塵が舞う河川敷で、2人の男と、1人の男が対峙している。そこにはギャラリーが多く集まっており、善良な人間が居たら警察に通報していただろう。だがそんな人はいないので、ただただ俺たちを囃したてる野次馬たちがいるのみだ。男たちに囲まれ、俺たちはまさに一触即発の状態だった。

「よし、有人かかってこい…」

 目の前に髪を紅く染め上げた180センチ越えの憧れの先輩がいる。何でこんなことに?―――俺の疑問が浮かぶ前に、拳を作る隣に居る男。彼は綺麗に口角を上げると、挑発する。

「殺意満々ですね、先輩。カッコいい顔が台無しだ」

「おめえはいつも一言多いんだよッ、黙ってろッ」

 礼儀がなっていない幼馴染の男に手を上げる。ボコッと音が鳴る程頭を強く叩いたので、ヤツの綺麗で男前の顔が歪んだ。

「いってえなぁ…! てめえこそ手が出るのが早いんだよ」

「うっせえなぁ! カッコいい先輩の拳ちゃんと見とけよ」

「…チッ」

 俺は不愛想に言うと、男は舌打ちをする。そんな失礼な奴を見ずに俺は先輩と向き合った。先輩は面白そうに笑っている。今から俺たちと喧嘩しようとするのが、心底楽しそうに笑みを浮かべている。まるで野獣のような顔に、冷や汗をかく。

 どうしてこうなっているのだろう。

 それは何度も考えたことだ。隣にいる幼馴染と、憧れである俺たちの先輩がどうして対峙しているのか。なんで自分が、先輩と敵対するような形になっているのか。俺はそのことを思い出しながら、拳を握りしめ目の前の憧れと向き合った。

 

◇◇◇◇

 

 俺―――国崎有人(くにさき ありと)の幼馴染である桐嶋陽人(きりしま ようと)は今の高校でもそうだが昔からとにかく目立つ奴だった。俺も目立っていたというか、悪目立ちはしていたが、陽人の場合はいい方で目立っていた。

 スポーツも、成績も優秀。おまけに、顔も美形。一言多いのが玉に瑕だがそんな欠点なんて覆い隠すほどの魅力には奴にはあった。だがそれ故に、陽人はよく子供の頃から厳つい奴らに絡まれていた。だが陽人は神様に愛されているらしい。喧嘩まで強い幼馴染はそんな奴等なんていつだって一発でKOしていた。

 俺もよく目つきが悪いからとか、背がデカいからなんて理由でよく不良に絡まれた。俺はそんなの心底どうでもよかったので、売られた喧嘩は買わなかったが、それを面白く思わなかった奴らに俺と仲がいい陽人が狙われたのだ。

 俺が助ける前に陽人は不良なんて片手でぶっ飛ばしていたが。

 ―――そんな強い幼馴染に何も思わないわけがなく。俺はいつの間にか、売られた喧嘩は買うようになった。

「なあ、有人。あんた、毎日泥だらけで帰ってきて何してんの?」

「…なんも」

 夜仕事の母ちゃんに中学に行く前に言われて、俺はぶっきらぼうに言った。

 俺は買った喧嘩を、小学生の時に習っていた空手で勝っていた。勝ちはしていたが、擦り傷やら制服が泥だらけになったりしていたので不審がられたのだろう。俺は夜の仕事で疲れているだろう母ちゃんに心配かけたくなくて、リビングからそそくさと出て行こうとした。

「なんもないわけないやろ! 傷だらけで帰ってきて、変な人と関わってないだろうねぇ!」

 腕を掴まれて、痛みに呻く。そんな事を知られたくなくて、俺は生まれて初めて母ちゃんに大きく怒鳴った。

「うっせえババア! うぜえんだよ、俺がどこで何やってたってなんだっていいだろうが!」

 俺が怒鳴ると母ちゃんは悲しそうな顔をした。美人な母ちゃんが台無しだ。

 ―――俺のせいだ。それは分かっていた。

「…今日飯いらねぇから」

「あっ。ちょっと、有人!」

 母ちゃんの言葉を無視して俺は鞄を持って外に飛び出した。そんな俺を待っていたらしい陽人に玄関先でばったりと会った。奴は面白そうな顔をしてじっと見ている。

「へえ、お前もそんな辛そうな顔すんだ。めっずらしい。喧嘩でもしたの?」

「……べつに、」

「べつにって何だよ」

 心配してやってんのにさ、とブレザー姿で笑う男は、毎日のように喧嘩をしているはずなのに傷一つなくてムカつく。要領のいい陽人は、傷一つつかないスマートな勝ち方を知っているのだろう。陽人は興味がなくなったのか、それ以上は聞いて来なくてほっとした。

「…今日はアイリちゃんはいいのかよ」

 俺たちはそんなことを言いつつ歩き出した。家が隣同士である陽人は、こうやって通学するときに大体一緒に登校している。アイリちゃんって言うのは、陽人の最近出来た彼女だ。陽人はモテるので、別れてもすぐに付きあう相手がいる。

 未だに彼女なんて出来たことがない俺にはあまり興味のないことだが。昨日はアイリちゃんと登校していたので、つい気になって聞いていた。それに対し陽人は、綺麗な顔に似合わず辛らつに言い切った。

「あの子パンケーキと、雑誌の話と、自分の話しかしないから飽きちゃった」

 舌を出し、嫌悪感を露わにする男は、いつでもこうやって人を馬鹿にしてくる。綺麗な顔なだけに、その辛らつな言葉は破壊力がある。だがずっと今までこうだったので、そこまで衝撃は受けない。

「ふーん。ポンポン告白受け入れるからダメなんだろ。ちゃんと絞った方がいんじゃねえの?

 相変わらず辛らつだな、と言った俺に陽人は馬鹿みたいに笑った。

「絞るのめんどいじゃん?」

「飽きたらポイ捨て?」

「そーそう」

「マジ人類の敵だな」

 そう言って俺が笑うと、陽人も楽しそうに笑った。俺たちは毎日くだらないことを言い合いつつ、兄弟のように育ってきた。母子家庭である俺に、陽人のおばさんはかなりよくしてくれている。陽人に『実の息子の俺より愛されてるよ』と言われるぐらいに。

 成績優秀、スポーツ万能で、いつもクラスの中心だった。一言多いし、嫌味が多いし、口も悪いが全て顔でカバーしてる。

 不愛想で少し目が鋭いから同級生に怖がれている俺とは大違いに人気者の陽人だが、なんだかんだ奴は違うクラスになったとしても俺のところに来ていた。どうせ会ったってくだらない言い合いをするのが目に見えているのに。―――まあ、きっと居心地の良さというものがあるのだろう。

「お前顔はいいのに、ぶすっとしてるからモテねえんだよなぁ」

 もったいねえ、と石ころを転がす陽人を見ながら言い返そうと思った瞬間だった。

「いいよ別にモテなくて、んぶっ、なにす…ッ」

「おらっ、笑えよ〜」

 顔を手で掴まれ無理やり笑顔を作らさそうになり、必死になって俺は抵抗する。俺も170センチで中学生では大きい方だが、奴も同じぐらいなので力は同じぐらい―――ではなく陽人の方が力が強く引きはがせない。

「な、なにすんだよっ」

「ん〜、笑顔のれんしゅ〜」

 ぐにゃぐにゃと頬を引っ張られ、痛みに呻く。

「いてえんだよ、この馬鹿力!」

 俺が抵抗する姿を見て陽人は大笑いしている。密着する陽人の身体は思ったより自分よりも華奢で驚いた。こんなに華奢なのに、彼の方が力は強いのだ。それに喧嘩も強い。神様って不公平だ。同じぐらいの背なのに、陽人の方が足が長くて、背も大きく見えるし―――。

「口も悪いとモテねえぞ〜」

 身体を密着させ、耳元に囁く幼馴染。なんだこの体勢。足を絡ませて動きにくいったらありゃしない。

「だから、モテなくていいっていってるだろっ」

「そりゃあいい」

 ひゅうっと口笛を吹いた陽人はあっさりと手をどけた。

 あんまりにもあっけない解放に、なんなんだよ…と俺はどこかおかしい幼馴染を目つきの悪いと言われた目で睨むように見つめたのだった。

 

  • PREV
  • TOP
  • NEXT

  • inserted by FC2 system