とシュガー〜恋愛狂愛〜

6

 

 

 ―――ゆり香さんは、アイツみたいにコイツの奴隷になれるの?

 その言葉を聞いて、3人の間の空気が変わった。佐藤は慌てて、この空気を変えようとした。

「あはは〜。何言ってんだよ! 小林さん気にしなくていいから!」

 佐藤は引きつった笑みを作りながら、月村の腕を引っ張る。

「覚悟もないのにコイツと付き合おうとか考えてるわけ?」

「―――」

 いつものイントネーションがない、冷たい言葉。その月村の目は目を逸らしてしまうほど、冷酷なものだった。思わぬ言葉に言葉を失う。小林とは以前付き合っていたことを、月村は知らないはずだ。知らないのに、『付き合う』という単語が出てくるのは単純に月村の勘がいいからだと佐藤は考える。

「おい、ちょっと失礼だろ! こっち来い! あ、ちょっと小林さん離席するねっ」

「あ、うん…」

 曖昧な笑みを浮かべる小林に罪悪感を覚える。

 月村は佐藤の引っ張る腕を抵抗せずにされるがままになっている。男子トイレの中に入ると、佐藤は月村を睨んだ。

「おい、何言ってんだよ。小林さんも困ってたじゃん」

「別に〜。俺は思ったことを伝えただけだけどォ?」

「初対面の女性に言う事かよ…」

 月村の言い分にため息をつく。自由奔放なのはしっていたが、あまりに欲望に忠実過ぎる。

「奴隷とか…そういうの。ミクリさんにも言ってんじゃないだろうな」

「何彼氏面してんだよ。そもそもアイツは奴隷志願者なんだからぁ」

「酷すぎる偏見だな。失礼過ぎる…」

「ん〜、偏見じゃなくて事実ぅ」

 ニコニコと笑っている月村を怖く思う。自分とは違う価値観を見せつけられて心がソワソワする。月村とは違う人間だ。それは分かっているのに、何だか寂しい気がした。こんな最低な野郎なのに、そんな事を思う自分が不思議だった。

「どうせセフレか何かだったんだろ? ゆり香さんと」

「なっ」

 あまりに直接的な言葉に顔を赤らめる。

 彼女とはそういう関係になる前に別れた。やはり月村は勘が鋭いのか、男女の関係であることは分かっているらしい。

「変な想像しないでくれる? 小林さんに失礼だろ」

「あんなにあの子から好き好きオーラ出てんのに、まさか気付いてないわけぇ? 鈍感にも程があるなァ〜」

「それは…。月村の気のせいだろ」

 そう思わなくもない言動はいくつか合ったが、あまり気にしないようにしていた。それを指摘されるとは思わず、目が泳いでしまう。

「ふぅん。じゃあ、もうセックスしたんだぁ?」

「はぁ?!」

 突拍子もない事を言われて、佐藤は目を丸くする。何が『じゃあ』なのかも分からないし、その次の言葉が『セックスしたんだ』なのかも理解出来ない。顔を真っ赤にして動揺していると、肩を引き寄せられた。

「アソコにちんこいれて、気持ちよかった?」

「―――ッ」

 耳元に囁かれた言葉。

「下品っ」

 引き寄せられた肩を、どうにかして腕を押す。しかし思いの外力が強くて押し返せない。

「へえ、気持ちよかったんだぁ」

「だから、やめろって、そういうの! 好きじゃないっ、キモいっ」

「…キモイ?」

 月村はまるで1+1は2ではないと言われた子供のような顔をしている。先程までのからかいの表情からは一変したものになっていた。 

「キモいとか初めて言われたぁ〜」

 けたけたと笑っている月村を恐ろしく感じる。どうして『気持ち悪い』と言われて笑えるんだろう。ゾワゾワとしたものを感じていると、掴まれている肩の手の力が強くなる。

「へ〜、さとーってそんな顔するんだ」

「そんな顔って…何だよ。てか手…痛いんだけど」

「鏡でも見たら? くくっ、いいじゃん。もう少しこのままで…」

 そう言われて鏡を見ると、自分の怯えた顔が映っていた。そして、月村の興奮しきった顔も―――。ドキッとしていたが、不意に我に返り、思い切りよく月村を引きはがした。

「もういいだろっ、戻るぞ。小林さんを待たせちゃ悪いし…」

「あー、そう。俺ぇ、帰るわ〜」

「は?」

「またねぇ〜」

 あっさりと手を離されたと思ったら、すたすたと佐藤の前を歩き、手をひらひらとさせてトイレから出ていった。

「な、なんだったんだ…?」

 不思議に思いつつ、居なくなった先のドアを見つめる。

 掴めない人間だとは思っていたが、今日はその傾向が如実に出た。脱力しながら、佐藤は小林の元に戻るため頬を叩くとその場を後にしたのだった―――。

 

◇◇◇

 

 ―――はぁ、はぁ、はぁ…。

 誰かの息遣いが聞こえてくる。耳元で荒っぽい吐息がしてきて、何だかこしょばゆい。

 ―――さとーのちんこ、すっげえ…。

 は?と思い目を開けるとそこには、裸の月村が居た。その顔は雄そのもので発情しきっている。押し倒された状況だと気付いた時にはもう遅く、両腕は絡めとらえられていた。抵抗しようと動かしてもビクともせず、背中に冷や汗が流れる。

 ―――俺の方がでかいけどぉ、色は綺麗…だよなぁ…。

 いつの間にか月村の手が自分の性器に移動している。まじまじと見られている視線を感じ、顔を赤らめた。

 声を出して『やめろ』と訴えたいのに、声が出ない。出るのは吐息だけだ。

 ――――きもちぃ?

 …――――そんな事、聞くな!

 男でも女でも肌は触れ合ったことはない。こういった性的な事をするのも初めてだ。

 ―――俺さぁ、お前の事―――…。

 月村の囁く声。

 その声を最後に、佐藤の意識は遠くなった―――。

 

 

「…はっ?!」

 がばっとベッドから飛び起きる。今が現実かどうか不安に駆られた。目の前にはいつも通りの自室が広がっている。身体中は汗でびしょびしょに濡れていた。

「え…ぁ、あ…〜」

 スマホを見ると深夜の3時。まだ外は暗く、部屋も常夜灯になっており、辺りは見えない。声を出してみるが、掠れており自分の声とは思えない。先程の事は夢だと気づくが、あまりにリアルな夢だったため、未だに心臓がばくばくと鳴り響いている。

「うわ! マジか…」

 嫌な予感がしてベットのシーツを捲ると、ズボンが盛り上がっており、身体が思わず脱力する。男に…しかも月村に性器を触られて勃起してしまうなんて、こんなのあってたまるのかと思った。恥ずかしくなって、顔を赤らめる。今度会うとき、どんな顔をしていいのか分からない。

「てかどうすんのコレ……」

 勃起した性器を見て、佐藤は途方に暮れてしまう。こんなの見てしまってから、抜くなんて罪悪感が凄い。

「はぁ…、最悪すぎる……」

 上を見上げても、天井しか見えない。どうすることも出来ず、ただ時間が過ぎるのを待った―――。 

 

 

 

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